「本気の共闘」を他の野党に呼びかける日本共産党
日本共産党は、かねてより立憲民主党や国民民主党などの他の野党に対して、政策の一致点での「本気の共闘」を呼びかけている。そして、今回は次期総選挙を睨んで「野党連合政権」構想を提唱し、上記両党などにも共闘を呼び掛け、9月12日れいわ新選組の山本太郎代表とは共闘の合意が成立した。
共産党は、今回の「野党連合政権」構想に限らず、これまで度々他の野党に対して古くは「民主連合政府」や、「国民連合政権」などの政権構想を提唱し、共闘を呼び掛けてきた。
今回の「本気の共闘」は、従来の単なる「選挙共闘」ではなく、安倍自民党政権を打倒し、「本気」で政権を取りに行くための「共闘」であることは明らかである。
日本共産党の党勢衰退が止まらない
しかし、近年日本共産党の党勢が衰退し、1980年前後のピーク時の50万人に近かった党員数は28万人に減り、当時355万人の赤旗読者も100万人を割り込んだ(9月15日第7回中央委員会総会報告)。その結果、1996年~98年当時衆参の国政選挙で比例726万票~819万票を獲得していた得票数も今回の参院選比例では448万票と大幅に減少した。
党財政も以前より悪化し、特に若者の入党者が減少し、党員の高齢化が進んでいる。共産党の他の野党に対する「本気の共闘」の呼びかけは、党勢衰退による危機感が根底にあると考えられる。共産党の衰退は何も日本共産党だけではなく、高度に発達した西欧先進資本主義諸国の共産党にも共通する現象であり、資本主義の発達・高度化により革命を担う労働者階級の生活水準の向上に伴う構造的問題である(2019年9月4日「アゴラ」掲載拙稿「日本共産党は生き残れるか」、9月10日掲載拙稿「マルクス資本論の重大な理論的誤謬」参照)。
共産党の政権奪取の常套手段は、一致点での「統一戦線」戦術
日本共産党に限らず、歴史上、世界の共産党が政権を奪取するための常套手段は「統一戦線」戦術であった。「統一戦線」とは、二つ以上の異なる政党や団体などが、共通の政治目的を達成するために、統一して闘う戦術のことである。
1921年のコミンテルン(国際共産党)第3回大会で、労働者階級の多数を獲得する戦術として提起された。歴史上、ロシア革命を成功させたレーニンによる「労農同盟」、中国革命への道を切り開いた毛沢東による「国共合作」が有名である。日本共産党も、政策の一致点での「統一戦線」戦術を極めて重視している(党綱領四=13)。
「野党連合政権」は民主連合政府樹立のための手段
日本共産党が、立憲民主党や国民民主党などの他の野党に、政策の一致点での「本気の共闘」を呼びかけ、今回「野党連合政権」構想を提唱した目的は、もちろん、安倍自民党政権を打倒し、「野党連合政権」を経て、共産党主導の「民主連合政府」を樹立するための「統一戦線」戦術に他ならない。
共産党にとって「野党連合政権」は、究極の目的ではなく、共産党主導の統一戦線の政府である「民主連合政府」を樹立するための手段であり方便に過ぎない。政策の一致点での「本気の共闘」即ち「統一戦線」戦術による共産党主導の「民主連合政府」の樹立は、党綱領においても明確に規定されているからである(党綱領四=13)。
日本共産党主導の「民主連合政府」とは何か
日本共産党は、1970年代から共産党主導の統一戦線の政府である「民主連合政府」の樹立を提唱してきた。民主連合政府では、安保条約の廃棄と自衛隊の解消が行われる(党綱領四=12。不破哲三・井上ひさし著「新日本共産党宣言」138頁146頁1999年光文社刊)。
日本社会党は一時期「社共共闘」路線を取り、共産党と選挙協力して東京、京都、大阪などで「革新知事」を誕生させたことがある。しかし、日本社会党は共産党提唱の「民主連合政府」には賛同しなかった。
日本共産党が堅持する「共産主義イデオロギー」
日本共産党は、1991年のソ連崩壊により共産主義体制が否定され克服されたにもかかわらず、現在も党綱領や党規約で科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)に基づく「社会主義・共産主義社会の実現」を規定している(党綱領五=15。党規約2条)。すなわち、資本主義体制を打倒し、生産手段を社会化し、計画経済を行い、国家(党官僚及び国家官僚)が経済を計画運営する共産主義体制の実現を目指す「共産主義イデオロギー」を堅持している。
さらに、共産党は資本主義体制を打倒し、社会主義・共産主義社会実現の手段としての、いわゆる「敵の出方論」「プロレタリアート独裁論」「民主集中制」を放棄していない。のみならず、外交安全保障政策として、日米安保条約廃棄、自衛隊解消を主張している(党綱領四=12)。
「本気の共闘」は民主連合政府・社会主義共産主義日本への道
そうすると、基本的には「自由と民主主義」「議会制民主主義」の理念に基づく資本主義体制を支持し、「敵の出方論」「プロレタリアート独裁論」「民主集中制」を否定し、生産手段の社会化や計画経済に賛同せず、科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)に基づく「社会主義・共産主義社会」の実現を支持しない、立憲民主党や国民民主党などの他の野党と共産党は、イデオロギーにおいて鋭く矛盾対立し「水と油」である。
そのうえ、日本の存亡にかかわる、自衛隊や日米安保などの外交安全保障政策でも根本的な矛盾対立がある。しかしながら、それにもかかわらず、目先の「安倍自民党政権打倒」という「一致点」において、他の野党と共産党との間で、共産党の統一戦線戦術である「本気の共闘」が成立し、安倍自民党政権を打倒した場合は、「野党連合政権」を経て、共産党主導の統一戦線の政府である「民主連合政府」、さらには「社会主義・共産主義日本」への道に進む危険性も決して否定はできない。
他の野党には、共産党の「統一戦線」戦術である「本気の共闘」に対し、特に慎重な判断が求められる。
加藤 成一(かとう せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。