バチカン・ニュースが3日報じたところによると、米国のマイク(ミヒャエル・リチャード)・ポンぺオ国務長官は同日、ローマ法王フランシスコを私的謁見した。イタリアの血筋をひく同国務長官とローマ法王との間で何が話題となったかは報じられていないが、フランシスコ法王はアルゼンチン出身だが、イタリア出身の移民の血が流れている。その意味で、フランシスコ法王とポンぺオ国務長官は出自ではよく似ている。ひょっとしたら話が弾んだのではないだろうか。
ポンぺオ国務長官は同日午前、バチカンのポール・リチャード・ギャラガー外務長官(大司教)と共に宗教の自由と人道支援に関するシンポジウムに参加した。ギャラガー大司教は、「ポンぺオ国務長官の参加はバチカンと米国両国にある共通価値観を示すものだ」と述べている。ちなみに、同会議は、駐バチカンのカリスタ・キングリッチ米大使らが主催した。同大使は米共和党のニュート・キングリッチ元下院議長の夫人だ。
ギャラガー大司教の発言は多分、ワシントンのゲストに対する外交的配慮があったのだろう。フランシスコ法王とトランプ大統領の間には一致点と対立点がある。例えば、バチカンと米国は中絶問題では完全に一致している。トランプ大統領は中絶を厳しく批判している指導者だ。
フランシスコ法王は今年2月、「中絶をあたかも人権のように受け取る者もいるが、胎児は自分の好みによっては愛し、そうでない時は捨ててしまうような消費財ではない。命を抹殺することは殺人を意味する深刻な問題だ。中絶を認めるような法を支持することは間違いだ」と強調している(「ローマ法王『中絶は人権にあらず』」2019年2月4日参考)。
一方、バチカンとトランプ政権の間では移民対策で大きな相違がある。不法な移民の流入を阻止するためにメキシコ国境沿いに壁の建設を計画しているトランプ氏に対し、フランシスコ法王は、「いかなる壁も建設すべきではない。壁を建設する者はキリスト者ではない」と主張してきた。また、気候変動問題では、ローマ法王は環境問題に関する回勅「ラウダ―ト・シ(Laudato sii)」を公表し、環境保護をアピールしてきたが、トランプ氏は環境汚染問題では懐疑派と受け取られている(「トランプ氏とローマ法王の会見」2017年5月24日参考)。
ポンぺオ国務長官はイタリアのテレビとのインタビューの中で、ローマ法王とトランプ米大統領の間の移民問題での相違について、「この問題ではバチカンと米国の間には共通点がある」と強調、「南米のエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコから多くの移民が米国に来る。特に女性や子供たちの状況は悲惨だ。そのような状況を解決するためには、不法移民の出身国の国内状況の改善が不可欠だ。国内の安全と福祉が保証されれば、自国を出ていこうとする国民はいなくなるはずだ」と説明している。
米国では、トランプ大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会見で米民主党大統領選有力候補、ジョー・バイデン前大統領のウクライナ問題への調査要請容疑でゴタゴタ中だ。中東問題、イランの核問題のほか、北朝鮮とは実務協議に向け、スウェーデンのストックホルムで4日、予備接触、5日には実務協議がスタートするなど、米国の外交を主導するポンぺオ国務長官は超多忙だ。
蛇足だが、北朝鮮は強硬派のポンぺオ国務長官を嫌い、米朝会議で“ポンぺオ外し”をトランプ大統領に強く要求している。対イラン核問題で強硬派の一人、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が先月10日、トランプ氏との意見の対立から罷免されたばかりだ。同じように、ポンぺオ氏の罷免も間近かではないか、といった噂がメディアの中で流れている。
なお、バチカン・ニュースによると、ポンぺオ国務長官はイタリアではセルジョ・マッタレッラ大統領、ジュゼッペ・コンテ首相、ディマイオ外相らと会見したほか、ポンぺオ長官の曽祖父母が住んでいたパチェントロ(Pacentro)を訪ねる意向という。イタリアで最も美しい村の一つといわれるパチェントロはイタリア共和国アブルッツォ州ラクイラ県にある、人口約1100人の基礎自治体(コムーネ)だ。
ポンぺオ氏は喧噪なワシントンから離れ、曽祖父母の出身地を一度訪ねたいのだろう。人生で厳しい状況に直面した時、人は自身の出発点(ルーツ)に戻ろうとするものだ。ポンぺオ氏にとってイタリア訪問はこれまでの外国訪問とは違った意味合いがあるのだろう。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月5日の記事に一部加筆。