先週末、「朝まで生テレビ!」を久々にライブで通しで観た。「政界ニューリーダー激論!」と題し、少子高齢化、災害問題などを論じたが、出演した7人の若手議員のうち、アゴラでもおなじみのメンバーが4人も出演したとあって、編集長としてはちょっと嬉しくもあり、彼らがどのような舌戦を交えるか興味深かった。
そして、その結果は、公平に見ても自民党の小林史明さんと松川るいさんの存在感が明らかに抜きんでいていた。維新代表で出演した音喜多君がブログで率直に「実力差」を認めていたが(その点は評価していい)、中でも彼と同じ1983年生である小林さんの出来栄えは強烈な印象に残ったようだ。
番組終了後、音喜多君に感想を聞いたら、「小林さんは隙がない」と舌を巻いていた。論点の設定を含めて、議論をほぼリード。まさに「すべての政策課題について自信を持って発言している」(音喜多ブログ)状態で野党議員たちと見ている風景とは段違いであると感じさせた。総務政務官時代に、いま森ゆうこ氏の問題で注目の霞が関の働き方改革を提唱して総務省内にプロジェクトチームを発足して業務の効率化を推進。他の省庁も参考にし始めるなど、30代半ばで早くも実績を残しただけはある。これは決して安い世辞ではない。
社会課題の解決を掲げた異色の新・青年局長
その小林さんが先の組閣・与党執行部人事で自民党の第50代青年局長に就任した。青年局は45歳以下の党所属国会議員と1000人超の地方議員、一般党員も含めた約22万人で構成。まさに自民党ユースチームの監督的な役職だが、政治の玄人にはおなじみなのは文字通り総理総裁への登竜門ポストとされ、若き日の竹下登、海部俊樹、麻生太郎、安倍晋三らも就任していたと振り返ればその位置付けがイメージできるだろう。
そして、朝生のスタジオ入りする前の18日夕方、自民党本部で青年局の中央常任委員会の年一度の会合が開催され、全国のブロックを代表する若手の地方議員らが集まった。
会合では、災害対応の強化を掲げる一環で、災害時のSNS活用の勉強会を開催。フェイスブックとツイッターそれぞれの日本法人、LINEの3社の担当者からの取り組みをヒアリング。また、青年局伝統の台湾外交の充実や、地域の小中学校のICT化推進の施策が共有された。
ネットやテクノロジーの話が出てくるのは、小林カラーらしさとも言えるが、興味深かったのは、小林さんが「社会課題の解決に取り組む」との言い方をしていたことだった。
過去のメディアのインタビューにも「政治家は『社会起業家の一種』だと思っていて、社会課題の解決をビジネスでやるか政治でやるか、手段だけの違いと考えています」と答えるあたり、これまでの永田町では珍しい存在だが、この日の会合で報告されたSNSの話などはその表面的なパーツの一部に過ぎず、むしろもっと「哲学」的なところはそこにあるのではないかと直感した。
「陳情型」から「ソーシャルプロデューサー型」に
会合の冒頭あいさつで、小林さんはこれからの青年局のミッションについて「政策を練り上げて作るという場ではなく、みなさん自身が作り上げてきた政策を実践していくことで地域を変えていきたい」と抱負を語った。具体的にはどういうことか。「社会課題の解決」と述べたことの真意を含めて、終了後の記者ブリーフィングで尋ねてみると、いまの地方議員を取り巻く状況をこう見ているのだという。
今までのように地域の皆さんから要望をいただいてそれを行政の予算で解決をしていく、というだけでは地域課題や地域のニーズに応えられない時代になっていると実感している。むしろ議員側から課題を発見し、そして民間の仲間を集い、解決に導いていくようなプロデューサーのような役割が求められると思っている。
以前アゴラで掲載した本人の記事(政治・行政・住民の新しいパートナーシップ)にもそのあたりの思いを書かれているが、地方では人口(≒税収)が減少し、財政も先細りしていく中で、地方議員の役割はただの陳情対応や行政への口利き、ロビイング、議会質問での揚げ足取りといったことだけで済まされる時代ではなくなっている。先を見ている若い政治家は、ソーシャルビジネスや社会活動の企画、実行の推進役としての「ソーシャルプロデューサー機能」を見出しているのだ。
そうしたプロデューサー型の地方議員の先達として知られるのが、渋谷区の長谷部健区長だ。渋谷区議時代にお掃除NPOグリーンバードを創設し、清掃活動を通じた地域住民のコミュニティづくりを実施。他にも区立公園にネーミングライツを導入するなど民間企業も巻き込んで渋谷区の先進的な公益事業を数々仕掛けた。
小林さんに以前、長谷部区長の印象を聞いたとき、「政治家になってから存在を知ったが、自分の考えと同じだ」と注目していたことを聞かされた。長谷部区議(当時)の存在が全国に知られてベンチマークされ、若手の地方議員たちのNPO型の新しいアクションも増えている。
野党は旧来型のままなら選挙でも負け続けてしまう?
同時に選挙的な文脈で見ると、「平時」の地域課題の解決で同志となった仲間たちほど「有事」ともいえる選挙では自然と心強い応援団になるし、積み上げた評判も生きてくる。
そして、これまで長谷部さんのように突出した個人レベルで行われたソーシャルプロデューサー型の議員が、全国各地に点在していたところで、もし小林流のビジョンで自民党青年局が理想通りに機能し始めると、平時、有事を問わず地域で存在感のあるリーダーになるべく、組織的に若手議員を育成する効果が出てこよう。
もちろん、言うは易く行うは難し。取材からの帰り際、ある地方議員が「学校のICT化のように、新しいことを提案しても上の世代が首を縦に振らないんだよなぁ」と地元の現実をぼやく姿も目にした。音喜多君も5年前に取材した時点で「長谷部流」が理想と述べていたが、そうした組織づくりは課題を残しているように見える。
業界最大手の自民党の地方議員がソーシャルプロデューサー型に舵を振り切れば、それこそ各地にミニ長谷部とも言える議員たちが頭角を現すことになる。行政の知恵や予算だけを頼みにしていたり、批判や揚げ足取りばかりの野党議員との実力差は開くばかり。ただでさえ自民党は国政選挙の足場となる地方議員の数が圧倒的に多いわけだから、野党は旧来型の政治活動では、ますます風頼みになってしまうのではないだろうか。
自民党の「地方議員像のイノベーション」がある程度、進めば、政策実現でも選挙でも、野党はもう本当に追いつかなくなる。永田町で野党が、森ゆうこ氏的な言動に勤しんでいる間にも、自民党は、次代が新たな布石を打っている。
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」