会社の部門がなくなる!?

店を閉じたり事業を止めること見て多くの人は「あれ、失敗したらしいよ」と囁いているのではないでしょうか?もちろん、うまくいかないから閉じるのは正解なのですが、今の時代、必ずしも失敗したから閉じるのではなく、その部門がいらなくなったから売却するという見方の方が世の中の動きを正しく表現しているかもしれません。

リカード(Wikipedia)

経済学を勉強した人なら覚えているだろうリカードの比較優位論。英国は毛織物を、ポルトガルはワインを作っています。双方、お互いの得意分野のものだけを作っていれば一番生産性が高くなり、儲かるだろうという話です。

これをサミュエルソンは別のたとえにします。弁護士と秘書の関係です。ある弁護士は弁護士能力だけでなく、タイプの能力も素晴らしいとします。その秘書はタイプしか打てません。もしもこの弁護士が弁護士作業の上にタイプの作業まで自分でやったとしたらどうでしょうか?もちろんできますが、弁護士の費用が余計にかかるだけでなく、ほかの案件に割く時間が足りなくなります。だから安い賃金でお願いできるタイプ打ちは秘書にやってもらうのがよいのだ、という話です。

会社には様々な部門があります。また買収や出資などを通じて何十、何百という関連会社を持つ企業も珍しくありません。しかし、それが全部効率的に動いているのか、といえば必ずしもそうではないでしょう。あるいは時間と共に一部の部門は陳腐化するかもしれません。ならば比較優位論ではありませんが、陳腐化したり、思ったように伸びない部門は売却し、新たに得意とする分野に手を出すのは一策でしょう。

私はレンタカー部門を持っています。始めたのは7年以上前ですが、始めたきっかけは弊社で持っていた駐車場に空きスペースがあったのでそれを埋めるという補完的役割でした。当時、駐車場とレンタカービジネスは相性がいいと言われ日本でも住宅地の一角に駐車場とカーシェアリングが同居していると思います。

ところが弊社の月ぎめの駐車場は現在満杯でレンタカーが押し出され気味なのです。とすれば駐車場ビジネスをレンタカーで補完する理由がなくなったのです。ですので売却ないしビジネス終了が視野に入っています。

かつて私が自社の商業スペースでカフェの経営をやったのはテナントにスタバのようなカフェを誘致しようとしたのですが、うまくいかず、それなら自分でやると決めたことがスタートでした。8年間経営後、ある方からこのカフェを買いたいと言われ、それなら喜んで、と売却したのです。おかげさまでそのカフェは今でも盛況で今回テナントのリース契約の更改もして頂けました。

つまりそのビジネスをやり始めたきっかけは何だったか、そして、それが自分の主業になるのか、時代の要請はあるのか、ということを考えると事業の入れ替えは当然必要になります。またカフェを売却したもう一つの理由は私が日本でシェアハウス事業を展開するため時間的余裕が必要だったからです。今回、レンタカー事業の終焉が視野にあるのも新しいビジネスの開始が目先に迫っており、成長できる要素を持っているからです。

シルバーブレット/写真AC(編集部)

ところでリカードの比較優位論は決して正しいとは言えない考え方である、とされています。なぜなら効率を追求し、一つに特化するとも取れるからです。覚えていらっしゃる方も多いでしょうけれど、バブル崩壊後、日本の銀行は融資先に「本業復帰」を命じました。その結果、派生ビジネスと海外事業を閉じるケースが続出したのです。確かに本業復帰という点ではリカードの「比較優位論」に似ています。

しかし、その結果、日本は海外進出の基盤を失っただけではなく、日本国内市場は主力企業同士がぶつかり合うレッドオーシャン化が進み、価格競争という体力消耗戦に突入したのです。私から言わせれば「こんな日本に誰がしたという主犯は銀行である」と申し上げたいところです。

昨今言われている事業再編は組み換えであって事業量を減らすわけではありません。もちろん、時代と共に必要がなくなるビジネスは発生します。タイプライターや写真の現像、先日はポケベルもなくなりました。しかし、企業は事業の衰退とともに消えてなくなるわけにはいきません。そこで変化対応が出来たのが富士フィルムでできなかったのがコダックでした。時代の変化とは事業がなくなるだけではなく、新たに生まれるということなのです。

AI化が進むと職業がなくなる、とされています。確かになくなったり減ったりする分野はあるのですが、新たに生まれる分野もあるのです。そこを誰も見ていないからとても衝撃的な報道で読者の不安を煽ったりするのです。

企業も働く人たちも時代の流れの中でどんどん動いていかねばならならず、機敏さが現代社会では重視される時代になったともいえるのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年10月21日の記事より転載させていただきました。