パナマ前大統領が台湾断交・中国国交樹立の際、1.4億ドル受領発覚

白石 和幸

パナマのバレラ前大統領(Wikipedia)

世界に衝撃を与えた「パナマ文書」に続いてパナマの威信を傷つける出来事が先月発覚した。パナマではそれをファン・カルロス・バレラ前大統領(在任2014〜2019年)の名前から取って「バレラリークス(ValelaLeaks)」と呼んでいる。

バレラ前大統領が携帯電話を紛失した後、何者かによってワッツアップアプリから抽出された彼の通話内容(2017〜2018年)がメディアで暴露されたのである。それによって、彼が政界、司法、メディアなどに影響力を及ぼしていたことが発覚。さらに、パナマが107年の絆をもつ台湾と断交して中国と国交を結ぶために中国から1億4300万ドル(155億円)を受け取っていたことまで暴露されたのである。(参照:metrolibre.comensegundos.com.pa

パナマが中国と国交樹立をした際に中国からパナマに背後から金銭面での誘惑があったと噂されていたが、今回明らかとなり、それを受領したのが現職の大統領だったわけだ。

これがメディアで報道されたのは正にバレラ氏が大統領時代に中国を訪問していた時であった。この陰謀を企んだ組織は故意にこれを明るみに出すのにバレラ氏が中国を訪問している最中を狙ったように思える。

問題が明らかになったのはバレラ氏に対し、港湾局のホルヘ・バラカー元局長が通話の中で次のように語っているのがメディアで明らかにされたのである。

「中国からの10億人民元(1億4300万ドル)についてはコメントしていないと思うが、何しろ国庫の方には入金されていないのだから。そうしないと、台湾との断交による見返り金とおもわれるかもしれない」

これについてパナマのフロリダ州立大学の国際関係論のカルロス・ゲバラ・マン教授は「この寄付があったのか否か、元港湾局長は(このお金について)何のことを言及しているのか。それが寄付だったのであれば、如何なる項目で実行されたのか。また誰に渡されたのかということを中国は明確にする必要がある」と追及した。

さらに同教授は「両国の関係に影響する可能性はある。特にパナマの世論において中国に対する疑いがより強くなるだろう。現金受領がリークされる以前から中国の金銭による政治について強い噂が出回っていたからだ」と指摘した。米州機構のパナマ代表元大使のギリェルモ・コチェス氏は「現金受領が真実であるなら重い犯罪だ。この件は公務省の方で調査を進めるだけの理由がある」と指摘した。(参照:metrolibre.com

これに対し、在パナマ中国の魏強大使はパナマ紙『Metro Libre』が掲載した内容について根拠のない虚構だと否定している。(参照:metrolibre.com

2016年6月、台湾の蔡英文総督と会談した際には親密な姿を見せていたバレラ氏(台湾総統府Flickr

一方で、バレラ氏は中国との国交樹立で早速彼が出資し、兄弟が経営するリキュール会社の商品をパナマ政府の費用負担で商業ミッションや展示会に参加して利益をもたらした。(参照:critica.com.pa

「バレラリークス」が公にされたのが11月5日であった。中国からの裏金があったということ以外に、12日にはケニア・ポルセル検事総長が辞任した。それは主に以下の出来事に関してバレラに害が及ばないように保護し、逐一詳細を彼に報告していたことが暴露されたからであった。

ブラジルのゼネコン最大手オデブレヒトノのラテンアメリカを震撼させた汚職事件では、バレラがそれに法的に絡んでいないようにポルセル検事総長が操作したとされる。

パナマの元大統領で米国に亡命していたリカルド・マルティネリ氏をバレラ大統領(当時)の要請で、アメリカは彼をパナマに送還した。公金横領、脱税、スパイ活動の容疑で彼を裁くためであった。最終的にはマルティネリ氏はすべての容疑から無罪という判決が下ったが、彼を米国から送還させるための手続きをしたのがポルセル検事総長だった。

マルティネリ氏とバレラ氏が犬猿の仲だったのは前者が大統領で後者が副大統領だった時に、前者が後者に対し職務を十分に果たしていないとして解任したのが両者の不仲の起因だった。

ブルーアップルと称して59人を汚職容疑で起訴したが、彼らはマルティネリ氏が大統領だった政権下の官僚などであった。(参照:expresa.mepanamaamerica.com.pa

一方のバレラ氏は今回の「バレラリークス」は、マルティネリ氏が背後から糸を引いていた結果だとして彼を批難している。しかし、マルティネリ氏はバレラ氏が彼を追跡していた期間は、彼はアメリカの刑務所に収監させられていた期間でとてもではないが、バレラを復讐できるだけの余裕などなかった。(参照:observador.cr

バレラリークスを通してこれらすべての権利の乱用をパナマ国民が知ることになった。バレラ氏はこれから法の裁きを受けることになる。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家