米軍が今月3日、イラクのバグダッドでイラン革命部隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を無人機(ドローン)で殺害した事件は米イラン間の紛争をエスカレートさせたばかりか、中東全域を震撼させている。米軍は今後も軍用無人機を利用した戦闘を一層積極的に実施していくと見られている。
無人機が最初に登場した時、人間が直接観測できない領域をこなす手段として歓迎された。例えば、事故を起こした原子力発電所内の状況を観測するために無人機が活躍できる。また、地球温暖化を観測する手段として無人機は役立つ。その意味で、無人機は人類にとって大きな恩恵だが、同時に、それが軍事用に利用され、破壊活動や殺害が遠隔操作で可能となることで、これまで以上に多くの犠牲者が出ることが予想される。いずれにしても、人類が考え出したものは常にデュアル・ユースだ。建設的に寄与できる一方、破壊工作にも利用できる。無人機もその例外ではない。
前口上が長くなったが、オーストリア連邦会計監査院(RH)は24日、無人機に関する2つのレポートを発表したので、その概要を紹介したい。アルプスの小国オーストリアでの無人機の使用状況は規模的には小さいが、無人機利用で関わってくる問題点が浮き彫りにされているので、勉強になる。
以下、オーストリア通信(APA)が24日報じた両報告書の概要から報告する。
第1報告書は空港での民間航空の安全問題に関するものだ。第2報告書は連邦軍の無人機利用のコスト問題だ。両報告書も批判的な内容が多い。空港では無人機によるリスク防衛メカニズムがない、連邦軍での無人機利用は飛行時間で計算すると、コスト高であり、無人機の戦略利用が不明確だ、といった内容だ。
報告は2013年から17年の期間を調査したものだ。空港の安全対策では、民間航空を監視する当局も空港側も無人機に対する独自の常駐防空システムを有していないことが明らかになった。緊急時には連邦内務省の支援を受けざるを得なく、対策機材の運搬に時間がかかるから、緊急時に役立たない。
どの空港でもそうだが、航空機の離陸と着陸時が最も危険だ。その時に無人機が接近した場合、衝突の危険が出てくるからだ。例えば、英国のロンドン・ヒースロー空港で昨年1月、無人機のために一時、空港作業が停止に追い込まれた。英国2番目に大きいロンドンのガトウィック空港でも無人機に妨害され、数多くのフライトがキャンセルになったことがある。
RHは、「大きな空港では少なくともドローン防衛システムを配置すべきだ」と連邦内務省に助言している。同時に、多くの国際空港では既に実施されているが、無人機防衛への戦略を構築すべきだと要請している。
オーストリアの場合、公式に登録されている数以上の無人機が飛行しているという。2014年~18年の間、民間航空監視当局のAustro Controに6751機の無人機が登録されたが、その数は全体の7%にも満たないという。無認可で数多くの無人機が飛行しているわけだ。
無人機の場合(重量250グラム以下の無人機を除く)、月曜日から金曜日は8時から18時、土曜日は8時から14時と決まった時間帯でしか飛行できない(日曜日は不可)。また、民間航空の無人機は地上の対象から一定の距離(150メートル)を保って飛行しなければならないし、高度150メートルを超えてはならない。今年7月から欧州連合(EU)の空域ではドローンの飛行に関する統一規約が施行されることになっている。
第2の報告書、連邦軍での無人機問題だ。報告書によると、①無人機のランニングコストが高い、②無人機利用への戦略欠如、の2点が批判点として挙げられている。国防省は2011年~18年の間、無人機導入計画として330万ユーロを予算として計上してきた。6基の無人機が既に購入されたが、その経費は440万ユーロだ。予算を既にオーバーしている。
例えば、連邦軍が購入したフランス製無人機のこれまでの飛行時間は243時間だが、その経費は1時間当たり1万8200ユーロ(約219万円)にもなる。RHは購入した無人機の能率的利用を要求している。また、天候不順の場合、偵察用無人機の利用は多くの困難が出てくることも明らかになった。ちなみに、連邦軍は国境監視では無人機を利用して不法難民を監視してきた。
参考までに、米軍は2004年頃から偵察用、攻撃用のドローンを利用した対テロ戦略を展開している。無人機だけではなく、無人戦車、無人走行車両なども製造され、紛争地に導入されている。軍事専門家によると、人工知能(AI)やロボット技術の発展で無人兵器市場は年々拡大しているという。
無人機を含む無人兵器は従来の戦争概念を大きく変えようとしている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。