国民生活安定緊急措置法の政令改正によるマスク転売規制は、仕入れ価格を超える値段でマスクを再販売することの禁止だったので、転売ヤーが「抱き合わせ」による「すり抜け」を考えることは容易に予想された。つまり、転売規制の対象になっていないウェットティシュとか、その他除菌・防疫アイテムと一緒に「高額」で販売すれば、マスクの再販売で値段を吊り上げたことの立証はできないだろう、という発想だ。
これに対して、経済産業省の対応は早かった。そのウェブサイト上にある「マスク転売規制についてのQ&A」というコーナーの、Q4-4「マスクを他の商品と一緒に販売する行為(抱き合わせ販売)は対象になりますか。」で、以下のように回答している。
今回の規制により禁止される行為は、①不特定の相手方に対して販売をする者からマスクを購入し、②購入価格(仕入価格)を超える価格で、③不特定又は多数の者に対して転売する行為です。このため、抱き合わせ販売そのものを規制するものではありませんが、抱き合わせで販売されるマスクが上記に該当する場合には、規制の対象になります。
業者はおそらく、「いやいやマスク自体は仕入れ原価のまま販売しております。その他の商品で儲けさせいただいております。」とくるだろう。買い手はマスクの方が欲しく、その他の商品の購入を強制されているので、業者はマスクの方で「不当に儲けている」ことは明らかであるから、理屈としては当局の規制は及び得るのであるが、問題はどうやって立証するか、である。特に刑事罰を科すとなると、当局は慎重になるだろう。
経済産業省は上記の記述に続けて、独占禁止法にも言及する。
なお、商品の供給が不足しており、当該商品に代わる商品が存在しない状況の下で行われる抱き合わせ販売は,独占禁止法が禁止する不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)と評価されるおそれがあります。
不公正な取引方法には刑事罰規定がない。転売ヤーは身動きが軽いので、公取委が慎重にことを進めている間にどこかへ行ってしまう。楽天のような「逃げも隠れもしない(できない)」業者であれば緊急停止命令の申立てもありだろうが、相手はその筋の「輩」である。
より積極的に、「抱き合わせの場合には他の商品と併せてトータルで仕入原価を超える値段を設定した場合も同様である」としておかないと、逃げられてしまうかもしれない。そもそも現代ネット社会では、このような法令は「ザル」なのかもしれないが。
海千山千の転売ヤーである。もう次の一手を考えているのだろう。