ドイツで昨年、外国人排斥関連犯罪件数が前年の倍に増加したことが明らかになった。それによると、同国では2014年、外国人排斥関連犯罪件数は2207件だったが、昨年は4183件だったのだ。
ドイツの16の連邦州でも外国人排斥犯罪が急増したのは旧東独のザクセン・アンハルト州(州都マクデブルク)とザクセン州(州都ドレスデン)だ。前者では14年94件が昨年335件に、後者では182件から509件とそれぞれ急増している。ドイツ全体の8件に1件はザクセン州で起きている計算になる。ちなみに、ザクセン州では外国人の数は全体(人口約410万人)の20人に1人の割合(約5%)に過ぎない。決して、同州の外国人率が高いわけではないのだ。
このコラムでも紹介済みだが、ドイツでは難民や難民収容所が襲撃されたり、放火されるという事件が多発している。最近では、ザクセン州のクラウスニッツ(Clausnitz)で18日夜、難民が乗ったバスが到着すると、100人余りの住民たちがバスを取り囲み、難民たちに向かって中傷、罵声を浴びせるという出来事があった。また、バウツェン(Bautzen)では20日夜、難民ハウス用の元ホテルが放火され、その消火作業を見物していた住民たちから笑い声や喝采が飛び出したというのだ。
ザクセン州のスタニスラフ・ティリッヒ首相は、「ザクセンの名が汚されてしまった。それを取り戻すためには多くの時間と努力が必要となるだろう」と、一部の住民の蛮行を深刻に受け止めている。
一方、ザクセン州のカトリック神学者フランク・リヒター氏は、「わが州では相対的に同一民族の住民が住み、他の文化出身の外国人と共存した経験が乏しい。その上、社会は世俗化し、住民は宗教性に乏しい」(バチカン放送独語電子版25日)と指摘する。
ザクセン州のゲルリッツ教区のヴォルフガング・イポルト司教は、「旧東独国民の多くは非キリスト教の教育を受けてきた。彼らは今、自由を享受できる環境圏で生きているが、困窮から逃げてきた難民に対しては排他的な行動に出ている。『我々は国民だ』と叫び人々には、キリスト教的価値観が完全に欠如している」と指摘し、ドレスデン市などで広がっている外国人排斥運動「西洋のイスラム教化に反対する愛国主義欧州人」( “Patriotischen Europaer gegen die Islamisierung des Abendlandes”、通称・Pegida運動)を批判している。
また、チュ―リンゲン州のディーター・アルトハウス元州首相は、「東独共産政権(ドイツ社会主義統一党)は国民の徹底的な非宗教化を目指してきた。その結果、国民の精神的ルーツを抹殺することに成功した。ザクセン州では東西ドイツ再統一後、住民は民主主義の政治秩序を押し付けられてきたが、その根底にあるキリスト教的価値観は忘れられてきた。流入してきたイスラム教難民へ理解が欠けるだけではなく、それを排斥しようとしているわけだ。連邦政府は旧東独の産業インフラ整備や経済発展に専念する一方、宗教的教育を提供することを忘れてきた」と分析している。
ARDの意識調査によると、旧東独ザクセン州の外国人排斥傾向の原因として、28%は「経済危機」、27%が「メルケル政権の難民政策」、17%は「州政治」、10%が「家庭と学校の教育の欠如」という結果が出ている。
ワシントンDCのシンクタンク「ビューリサーチ・センター」の宗教の多様性調査によると、旧東欧のチェコは無宗教者が最も多い(国民の76・4%)。旅行者は美しいプラハの景色に騙されてはならない。そこに住む国民は久しく神を失ってしまっているのだ。同じように、旧東独地域の住民は神を失ったことすら自覚できないほど徹底的な無宗教教育を受けてきたのだ。
西欧社会では神を邪魔な存在と感じる国民が増えてきているが、チェコ国民や旧東独住民が長年「神のいない世界」(共産党政権)の中で生きてきた結果が何をもたらすかザクセン州の蛮行から推測するしかないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月29日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。