集団からの誹謗中傷(炎上)に対する対応(下)

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以下は、集団からの誹謗中傷(炎上)に対する対応()」の続きである。

(2)各SNSによる誹謗中傷をする層

前回のとおり、SNSで誹謗中傷をする人のタイプを分けることはできるが、SNSによって誹謗中傷をする層は異なっている。例えば、InstagramやTikTokは若い世代(小学生等も含む)が多く、前回の③のタイプが多い。またTwitterやブログは、のタイプが多なお、①のタイプは、炎上に集まるため、どのSNSにおいても集まってくる。

なお、YouTubeには、炎上を商売(閲覧数を稼いでビジネスになる)と思他人の炎上をあえて取り上げたり、さらに炎上するよう仕掛けたりする人もいる。もちろんこのような内容を投稿することは、名誉毀損的行為となる。 

4 今回の問題点と今後の改善点について

今回の件では、筆者は、大きく5つの問題点があると考えている。

まず①海外と比べて日本の法制度(発信者の開示手続き、多数の加害者に対する裁判制度、プロバイダ等に対する課徴金制度も含めて)が不十分であることである。日本では、現時点では、人の生命身体に対する保護と比べて、人の名誉や心の保護はまだまだ不十分であるといえ

ここ10数年で、SNSはその種類も増え、生活に不可欠な存在となり、またインターネットの発達や浸透もあり、誰でもインターネットに様々な情報を記載することができる時代になった。そのため、従前と比べて、人の名誉や保護は侵害されやすくなり、ネットタトゥーとして永続的にインターネット上に書き込みが残るようになった。しかし、それに対する法制度が追い付いていない現状がある。

次に②先日、Facebook Japan Twitter Japan ByteDance、LINEなどのネット事業者が参加するソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)が今回のことを契機に名誉毀損や侮辱を意図する投稿に関する緊急声明を発表したが、制度的には、まだまだ不十分である。

SNS各社は、投稿ガイドライン(誹謗中傷・批判・意見等の区別)を早急に作成し、そもそも誹謗中傷となる書き込みができなくなる制度投稿者の情報開示、また申告があった場合、迅速なアカウントの凍結誹謗中傷を迅速に削除できるシステム構築するべきである。

また、同時に③SNS教育の拡充は不可欠である。過度の法律による規制は表現の自由を侵害するため、小学校からSNS教育を義務付け、加害者にも被害者にもさせない制度作りが必要である。これは、主権者教育や法教育にもつながり、日本の民主主義をより良いものにするためには不可欠であると考えている。

そして、④メディア規制である。現在、一部ワイドショー週刊誌やネット記事では連日のように対立当事者を作り上げ、両論併記せず、著名人を一方的に叩く構成を続けている。内容的には、十分に名誉毀損等になりうる内容であっても、報道の自由や国民の知る権利に対する奉仕を理由に違法な内容を放送したり、記事にしたりしている現状がある。このような番組や記事、著名人に対する炎上を誘発し、集団による誹謗中傷行為、まさにリンチ行為を助長させていることをメディア自体が強く自覚しなければならない。

また、今回の件で、あまり議論されていないが、インターネット上にてニュース配信する会社も、全てのニュースただ漠然と配信することはせず、コンプライアンスの観点から、その内容について名誉毀損等になる記事をそもそも配信しないようにしていかなければならない。筆者としては、集団による誹謗中傷を助長しているニュースを提供するメディア、もしくは配信するメディアに対しては、課徴金を課すなど法制度を作っていくべきだと考えている。

最後の問題として、⑤番組制作者側は、出演者だけにあらゆる責任を負わせる番組作りを変えていかなければならない。現状、番組上で、出演者の言動が不適切として炎上したとしても、基本的にはその出演者がその発言の責任を負い、出演者が炎上の的となり謝罪する形になっている。しかし、本来、番組制作者側としては、その言動を配信前に確認していながら配信している点で責任もあるため、出演者だけが誹謗中傷の的にならない制度を構築し同時に番組制作者側が出演者の精神的なケアをする体制を作っていかなければならない。

今回の件について、筆者は、日本が今まで人の名誉や心を蔑ろにしてきた結果だと考えている。日本は、この問題について海外と比べると非常に遅れていると言わざるを得ないそのため、国や関係機関は、早急にあらゆる方向からその問題点を解決し、誹謗中傷が少なくなるようにしていかなければならない。もっとも、表現の自由は民主主義の根幹であるため、そのバランスにも慎重を期する必要あることは忘れてはならない

佐藤 大和   レイ法律事務所代表弁護士、「芸能人の権利を守る団体 ERA」共同代表理事