うさぎとカメ:現実世界でうさぎは決して止まらない

黒坂岳央(くろさか たけを)です。 ■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

acworks/写真AC

童話に「うさぎとカメ」の競争の話がある。うさぎは速いが、カメはノロノロ。途中でうさぎは慢心して居眠りをして、その間にカメが追い抜いてしまうという話だ。この童話から得られる教訓とは「慢心は身を滅ぼす」というのが一般的な認識だと思う。けど、筆者はこの童話を別の見方をしている。論考していこう。

現代社会にはうさぎしかいない

カメの強さは成長は遅くても、決して立ち止まらずに前進を続けることにあるとされる。けど、実際の資本主義社会では、成長は加速することでカメもうさぎになる。

実績や信用が小さい時期では、一歩の歩みはあくまで一歩分の歩数にしかならない。でもビジネスが成長することで一歩の歩みがいきなり1,000歩、10,000歩になったりする。

筆者はフルーツギフトを経営しているが、最初の頃メルマガ登録に新商品の案内を流しても、1個、2個しか売れず、たまに0個ということもあった。だが、メルマガ登録者数が3桁、4桁になるにつれて、反応がケタ違いになっていった。1通のメルマガの配信だけで昔の1ヶ月分以上の売上になる。でもメルマガを作成し、配信する労力はまったく変わらない。つまり、これは同じ1歩がケタ違いの結果をもたらすことを意味する。

他の事例をあげるなら、天才画家のピカソの逸話がある。彼はファンの女性に頼まれてさらさらっと3分間ほどで絵を書いた。わずかな時間で絵を仕上げ、高額な報酬を請求したことで女性は憤慨。だが、ピカソは「私はこの3分間の仕事に一生を費やしているのです」と答えたという逸話だ。ピカソは画家として技工と名声を高めたことで、カメからうさぎになったのだ。

つまり、現代社会ではこの逸話に出てくるような、一定の速度で成長するということはありえないということだ。現実のビジネス社会に存在するのは、「怠惰なうさぎ」と「止まらないうさぎ」だけである。

成功するビジネスマンは止まらないうさぎ

現代社会におけるトップビジネスマンは、誰も彼も止まらないうさぎばかりに感じる。特に年収億超えの経営者などは、セミリタイアなんてまったく興味を見せず、とにかくガムシャラに前進あるのみ、ブルドーザーのようなパワフルさでビジネスに打ち込む。

こうなると他の人間に勝ち目はない。享楽的に、怠惰に、休んだり走ったりしながらゴールを目指すうさぎと、加速度的に前へ進む力を得たうさぎでは始めから勝負はついている。否、加速度がある分、後者のうさぎとは差がつく一方となる。

現代は「up or out(あがるか、それとも退場するか?)」という世界だ。現状維持なんて存在しない。市場は常にプレーヤーの意思を無視して動く。次々と現れては消えていくチャンスに波乗りしながら、すべての確実をもぎ取っていくような肉食プレーヤー、それが現代社会のビジネスであり、止まらないうさぎなのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。