先日、テレビで「国会を1日開くと3億円の費用がかかる」という発言を耳にしました。「だから、国会は開かずに、その費用を別の用途に使うべき」との主張です。
これは、企業経営でいう「意思決定」の論点でもあります。社員時給を下回る仕事を受けるべきか。製品原価を下回る売価の受注をすべきか。などといった重要な要素が含まれています。
今回は、企業経営の視点で、この「国会の費用」について考察してみたいと思います。
なお、筆者は、政治評論家ではなく中小企業診断士です。よって、国会を開くべきか、開かないべきか、といった点については考察しません。
1日3億円という金額
この1日3億円という金額は、どのように算出しているのでしょうか。以下二つの記事が参考になります。
国会にかかる費用1日3億円 民主主義の必要経費とは(日本経済新聞 2020年2月26日)
税金1日4億円以上 実りなき国会の体たらく(産経ニュース 2019年12月15日)
両記事とも、必要とされる予算を、365日で割って算出しています。稼働日数を毎日(休み無し)、としている以外は、製造業における社内時給(賃率)の算出手法とほぼ同じです。概算指標としては問題なく使えます。
しかし、金額に変動費と固定費が混在しているため、「意思決定」の指標としては使えません。
変動費とは、生産量や売上増加に伴い発生する費用、固定費とは、生産や販売をする・しないに関わらず発生する費用をいいます。飲食店の場合、食材は変動費、家賃は固定費と言えます。
上記、産経新聞の記事を参考に、この国会の費用を変動費と固定費に分解してみましょう。
3億円の内訳をみると
記事内に記載されている費目は、文書通信交通滞在費、立法事務費、公設秘書給与、衆参両院議員会館や議員宿舎の維持費、職員給与、政党交付金などです。
文書通信交通滞在費は、通信費等と考えてよいでしょう。ただし、国会議員へ月額100万円、固定額支給されています。つまり固定費です。立法事務費も、議員1人当たり月額65万円の固定額支給なので、固定費となります。その他給与や設備維持なども固定費です。
つまり、国会の費用は、国会開催に連動して増える「変動費」はほとんど無く、開催してもしなくても発生する「固定費」が大半を占めている、と言えます。
結論は「1日換算で3億円」
今回の結論です。
国会の費用の大半は固定費。したがって
「国会を開くと1日3億円の費用がかかる」
のではなく
「国会の費用を1日に換算すると3億円になる」
と表現すべきです。
国会を開くと、新たに3億円の費用が発生するわけではありません。また、国会を閉めると3億円浮く、というわけでもありません。
変動費と固定費は分ける
企業経営においても、上記のように、日や時間あたり「いくら」といった指標が提示された場合は、注意が必要です。
指標として、管理職に社員時給を提示している企業も多いのではないでしょうか。
例えば、自社の社員時給は5,000円。一方、社員を他社派遣した場合の、1時間あたりの売上は4,500円。1時間派遣するごとに500円の損になる。だったら、この仕事は断ろう。そう考えてしまう管理職は少なくありません。
このような事態を防ぐには、5,000円と時給総額だけを提示するのではなく、変動費2,000円、固定費3,000円、などのように内訳を「明示」しておく必要があります。
明示されていれば、売上金額が「変動費」を超えるか、で判断できます。
上の例だと、売上が4,500円なら、変動費2,000円を上回る。だったら受注しよう、と意思決定できるわけです。
意思決定においては、様々な数値が示されます。ミスリードされることを防ぐためにも、金額が提示された場合、その内訳に踏み込む癖をつけておくべきでしょう。