規制改革推進会議の答申が取りまとめられました。
電波・通信・放送制度改革もその重要項目です。
電波・通信はブロードバンドのユニバーサルサービス化を検討するなど1ページでさらりと扱われているのに対し、放送は7ページにわたりガッツリ記述されています。
それはぼくが投資WGに呼ばれ、通信・放送融合についてお話しした内容と重なるものです。
答申を読んでみます。
「放送を巡る規制改革」は4項目。
ア 放送事業者によるインターネット配信の推進
イ ローカル局の経営基盤強化とNHKによる協力の在り方
ウ インターネットにおける放送コンテンツの円滑な流通に向けた制度整備
エ 放送コンテンツの製作取引適正化
問題意識は正しく、そしてそれは同時期に総務省の「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」がまとめた報告ともオーバーラップします。
業界関係者は合わせ読むのがよいでしょう。
ア 放送事業者によるインターネット配信の推進
はNHKに向けた提言です。配信のエリアを放送対象地域に制限する制御は不適切とし、地方番組を積極的に全国配信することを求めます。
NHK同時配信を可能とする放送法の国会審議に呼ばれた際「地方からの全国・海外発信が重要」とぼくも申し上げた事項です。
また、受信料で制作された番組を有効活用すべきところ、NHKは100万件の番組と800万件のニュースを保存しているが、NHKオンデマンドで配信されているのは7000件にすぎないとし、考え方の明確化や公表を求めています。
さらに、コロナ下で休校中の子供に提供された「NHK for School」を「高く評価」し(珍しい!)、Eテレにおける学校放送番組の拡充などを求めています。
NHK、もっとがんばれ、という答申です。
イ ローカル局の経営基盤強化とNHKによる協力の在り方
これもまずはNHKを名宛人としています。
改正放送法に盛られた、ネット活用業務に当たっての民放との連携・協調義務に関し、ローカル局がネット配信基盤を構築できるよう協力せよ、というもの。
これも総務省報告と方向を一にしています。
同時に、ローカル局について、経営の自由度を高める制度改革や設備の共用化を検討する、としています。
ポイントは「関係者からの具体的な要望を把握し」が頭についていること。まずはローカル局が自らの経営戦略で考えろ、という姿勢です。総務省の報告もそのトーンです。
2年前、放送法4条の撤廃やハード・ソフト分離など放送制度改革の「うわさ」が流れ、業界がざわつきました。規制緩和に見えつつ、放送局の意向に基づくものではなく、すぐ沈静化しましたが、その後この分野の制度論はまず当事者の意向をベースに扱われていると考えます。
ウ インターネットにおける放送コンテンツの円滑な流通に向けた制度整備
ネット配信の著作権制度に関する事項です。これだけで3ページを割く力の入れよう。
放送と通信(ネット)で扱いが異なるため厄介になっている長年の課題で、放送局と権利者(実演家やレコード業界など)の利害が錯綜しています。
答申は前のめりで、放送のネット配信、拡大集中許諾制度、孤児著作物の裁定制度につき総務省と文化庁が制度設計を行うことを求めています。
放送とネットの著作権がねじれているのは日本ガラパゴス制度で、どうにかしたい。
通信・放送融合を邪魔してきたこの制度問題、前進を願います。
ただし、そう簡単ではない。経緯もありますから。
今でこそ放送局は問題解決に躍起だが、かつてその機会を逸してきたんです。
1997年にガラパゴスの大元、公衆送信権を著作権法に設けた時。
2001年に通信・放送融合を促す通信役務利用放送法を制定した時。
チャンスは2回あったと思います。
当時ぼくは放送のネット配信は著作権法上も放送と同等にすればよいと主張しましたが、放送局はネットから距離を取る姿勢でした。
著作権法上、放送と通信が分断されての運用が長く続く中、これを動かすには放送側がかなりの本気度を示す必要があるでしょう。
そしてもう一点、簡単ではないと思うのは、省庁の調整ではおぼつかないからです。
2006年に私的録音録画補償金を巡って著作権者と機器メーカが対立した際、文化庁と経産省の調整は不調で、以来、著作権者の願いは達成されていません。
2008年、地デジのダビング10を巡って放送局、機器メーカ、著作権者が対立した際、総務省、経産省、文化庁の調整は不調で、結局は民間による合意でことが収まりました。
霞が関の調整で民民の利害対立が収まる昭和は遠い遠い昔で、民間の当事者同士が握らないと動かない。
つまり本件は規制・制度問題ではあるものの、それを動かしたい放送局側が汗をかいて、権利者と握ったうえでテーブルに持ち込まないと展望を得づらい。とぼくは考えます。
この答申は規制当局より民間プレイヤーに向けて発せられた、と読みました。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年8月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。