著作権制度、ギロンの前にアクションを

中村 伊知哉

文化審議会著作権分科会基本政策小委員会。

前ラウンドでは、海賊版対策としてリーチサイト対策や侵害コンテンツのダウンロード違法化など著作権法改正をこなし、かつ、教育情報化に対応して学校で著作物を無許諾で使えるようにするなど、大きな進展がありました。

それに次ぐ今ラウンド、真っ最中です。

今期は、

・放送番組のインターネット上での同時配信等に係る権利処理の円滑化

・私的録音録画補償金制度の見直し

・デジタル時代に対応した著作権施策の在り方

というやたら重いテーマが並んでいます。

末吉瓦弁護士が主査、上野達弘早稲田大学教授が主査代理を担われます。

よく担われました。たいへんです。

ぼくは冒頭、2点コメントをしました。

教育情報化について、放送ネット配信について。

前者は措置済みの案件。

放送ネット配信はこれからの案件。

1 教育情報化について

子どもPC一人1台の運動を始めて10年になる。日本は途上国で、5人に1台だった。昨年の補正予算とコロナの緊急対策で4000億円強が措置されて、今年一気に達成できる見込み。同時に、補償金の制度がセットになったことで両輪が揃い、展望が開けることとなった。

知財本部の会議でも申し上げたが、制度改正に携わった政府はじめ関係者のみなさんと、特に瀬尾委員を筆頭とする権利者のみなさんに、教育情報化を推進する立場としてお礼申し上げる。

ただこれは来年度以降の措置をどうするかが本丸のテーマ。関係者の調整を期待する。

2 放送ネット配信について。,

私的録音録画補償金については、2004年の見直し論に参加した。2008年のダビング10の整理にも携わった。

非常に激しい利害対立があり、複数の大臣も登場し、訴訟もあった。それでも解決していない。そういう問題。

一方、通信放送融合という言葉が公式文書に登場したのは1992年の電気通信審議会答申で、30年近くのテーマ。

日本の著作権制度がガラパゴス化した30年のテーマなのに、制度見直し論はこの1-2年のこと。

これを論ずべきタイミングは、

・送信可能化権を作ったとき(1997)

・電気通信役務利用放送法を作ったとき(2001)

・通信放送法体系をガラポンにしたとき(2010)

など何度もあった。でも行われなかった。

それを今ただちに整理するには、民間ステイクホルダーの、それなりの覚悟とアクションが必要。

第三者が理論的な整理をしても動かないのがリアリティーだ。

この問題解決は、デジタル化に遅れを取った日本として待ったなしの重要課題であり、海外の制度と歩調を合わせるべきと考える。

が、それを前進させるためには、まずステイクホルダーのみなさんの意見集約、その調整に期待したい。

また、本件は通信・放送の法制度ともリンクする。

著作権制度と通信放送法制度がバラバラに議論されてきたことも問題の一因ということも留意すべきだ。

――コメントは以上です。

2に関しては、ネットで傍聴するみなさんも、何を言ってるんだ?と思われたかもしれません。だって、審議会での議論を無視するような発言ですから。

でも、ある種そういう意味も含めているんです。

録音録画補償金にしろ、放送配信にしろ、民間の利害対立問題でして、肉の世界です。

ビジネス+政治なのです。

そしてダビング10の際に痛感したように、行政がそれを解決する力も持ち得ていません。

ダビング10にみる霞ヶ関の失墜

それをアカデミズムなど第三者に委ねるなどフィクションです。

制度化したいステイクホルダーの経営者たちが、対峙する相手の親分とサシで握って妥結して、政治にもスジを通して、全方位に「しゃーねーな」と言わせる。

制度は、その上で審議会→政府→国会に落とし込む。

そのリアリティを持たずに議論していても時間の無駄になりますので、あらかじめ、文化庁の会議室の外でコトを進めておきましょうよ。

ということを申し上げたかったわけです。

なので、これを担う文化庁・総務省も大変です。

さて、ギロンよりアクションと行きましょう。

では。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。