バイデン米大統領はイタリアのローマで今月30日、31日に開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席するが、それに先立ち、29日にはバチカンを訪問し、フランシスコ教皇を謁見する予定だ。
バイデン氏は、60年前のジョン・F・ケネディ(1961~63年)以来の2番目のカトリック信者の米大統領だ。バチカンでも新大統領の動向に大きな関心と期待を寄せている。バイデン氏は副大統領時代にフランシスコ教皇と会合している。
少し繰り返しになるが、バイデン氏の「信仰の世界」について振り返る。バイデン氏は昨年11月7日、デラウェア州ウィルミントン市での大統領選の勝利宣言の中で、「今は癒しの時だ。トランプ政権下で分裂した米社会の新しい出発をもたらしたい。米国民は素晴らしい。わが国の歴史で、国民が一体化すれば実現できなかったことはなかった」と指摘、国民に結束を呼び掛けた。そして勝利演説の終わりになって、「選挙戦中、頭の中で教会の歌が常に蘇ってくるんだ。その歌は自分や家族にも、特に亡くなった長男ボーにとって大切な歌なんだ。その教会の歌は自分の、そして全ての米国人の信仰のエッセンスを歌っているのだ」と述べている。
その歌とは、“On Eagle’s Wings”(鷲の翼に乗って)だ。カトリック神父だったマイケル・ジョンカス氏が1976年、聖書の詩編にインスピレーションを受けて書いたものである。亡くなった長男の葬儀の時、当時副大統領だったバイデン氏は告別ミサで歌った。バイデン氏が人生の中で最も苦しかった時に出会った歌だ。アイルランド移民の家族の中で育ったバイデン氏は後日、「自分の信仰はその時期、深まっていった」と告白している。「神は苦しい時、自分を守ってくれた」という確信だ。
ところで、米カトリック教会内でバイデン氏のカトリック信仰について様々な批判の声が聞こえる。「教会に定期的に通う実践信者のバイデン氏は同性婚に反対せず、中絶問題でも個人的には反対しているというが、連邦最高裁の判断に異議を唱えなかった」といった批判の声が教会内で囁かれている。
バチカンニュースは昨年11月8日、「ケネディは当時、米カトリック教会の全面的支持を得ていたが、バイデン氏の場合、米国社会と同様,米教会は二分化している」と報じている。実際、昨年11月の大統領選では、米カトリック信者の52%はバイデン氏に、48%はトランプ氏に投票したという結果が明らかになっている。
ちなみに、米国のイエズス会系私立名門「フォーダム大学」の宗教文化センターのダビッド・ギブソン所長は、「米国の信者は中絶問題や同性愛問題では教会のドグマと自身の信念の間に溝が広がっている。バイデン氏は教会の多数の信者の側に立っている」と説明する。
今回はフランシスコ教皇に対する米国民の評価を紹介したい。米国の「ピュー研究所」が先月、米国のカトリック教徒の教皇フランシスコ評価について調査した。その世論調査によると、米国カトリック教徒の83%は教皇を前向きに見ており、今年3月から1ポイント増加している。
教皇フランシスコは、毎週ミサに行く信者の83%から支持されている一方、教会にめったに行かない信者からは80%、共和党を支持している信者からは71%の支持だ。対照的に、カトリック民主党員やそのシンパのカトリック教徒の91%の支持を得ている。すなわち、フランシスコ教皇は米国では民主党系カトリック教徒に多く支持されているわけだ。ただし、バチカンやフランシスコ教皇の具体的な政策については、たとえば、ラテン語の古い形式の典礼であるトリエント・ミサの使用を制限するという教皇の決定について、米カトリック信者の65%は「まったく知らない」と答えている。
フランシスコ教皇の性格については、過半数以上のカトリック教徒は、「思いやりがあり、謙虚で、オープンマインドで、よそよそしくない」と答えている。一方で、教皇が「リベラルすぎるか」については、全カトリック信者の65%、民主党系信者77%が「リベラル過ぎない」と答えた一方、共和党員では賛成(リベラル過ぎる)が49%で「そうとは思わない」という反対は48%とほぼ分かれていた。
カトリック信者ではない一般国民では、フランシスコ教皇を評価する値は60%でカトリック信者のそれより23%低い。注目すべき点は、教皇への嫌悪感が米国の一般国民の間だけでなく、米国のカトリック教徒の間でも高まっていることだ。前者の場合、2013年3月の14%から2021年9月の28%と倍増した。同じように、カトリック教徒の教皇への否定的な態度は2013年3月の5%から今年9月の14%とほぼ3倍に増えている。
様々な理由が考えられるが、バチカンの厳格な中絶禁止、聖職者の未成年者への性的虐待の増加などが米国民のフランシスコ教皇への嫌悪感増加の背景にあるのだろう。いずれにしても、フランシスコ教皇とバイデン大統領の会談でどのような話が飛び出すか興味深い。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。