グローバル・インテリジェンス・ユニット チーフ・アナリスト 倉持 正胤
日に日に秋が深まる中、10月はイタリアで開かれるG20サミット(主要20か国・地域首脳会議)、英国で開かれるCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)など世界規模の国際会議が続く。
こうした国際会議に関して議論される問題の一つとして、開催地をどこにするのかというテーマがある。G7サミット(主要7か国首脳会議)に関しては、これまで日本は1979年(東京サミット),1986年(東京サミット),1993年(東京サミット),2000年(九州・沖縄サミット),2008年(北海道洞爺湖サミット),2016年(伊勢志摩サミット)の6回,議長国となっている(参考)。2023年は日本で開催される予定となっていることから、10月に福岡が誘致を目指すことを表明し、名古屋も検討しているとみられているなど、早くも動きが活発化しそうな様相がみられる。
各都市がこれほどサミット誘致に熱心な理由は、経済効果に期待しているためであるが、これに加えて、福岡に関していえば「国際金融都市」構想への起爆剤としての役割が期待されているためだ。東京、大阪、北京、上海と並んで、福岡は「アジア金融ハブ」の役割を果たすべく、国際金融都市を目指しており、政府も「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2020」において、「海外金融機関等の受入れに係る環境整備等により、世界中から優秀な人材や資金、情報を集め、世界・アジアの国際金融ハブとしての国際金融都市の確立を目指す」と明記している(参考)。
この「国際金融都市」の条件を考えることで、あるいはG7サミットのような国際会議を誘致する際のヒントもみえてくるのではないだろうか。
いずれにしても、海外の富裕層を迎え入れるための居住空間の確保は必須である。少なくとも中心部の本宅に200平米以上の広さがなければ、富裕層は見向きもしないであろう。他方で、郊外に1,000平米以上でプール付きの別宅を確保できるような土地も確保できれば、さらに有利に働きそうだ。この点、東京よりも福岡のような地方都市の方が「地の利」があるものと思われる(参考)。
また、一流外資系ホテルの有無も大きな加点となるのではないか。「Five Star Alliance」という「5つ星ホテル」の情報サイトによると、少なくとも同サイト上では、福岡は選択肢にも出てこないという現状がある(なお、北九州では「リーガロイヤル小倉」が四つ星でエントリーしている)。実際、福岡には、グランドハイアット、ハイアットリージェンシー、ヒルトンが進出しており、来年(2022年)にはリッツ・カールトンも開業予定である。こうした点を、少なくとも同サイト上にデータで「引っかかる」にようにすることが、小さいことではあるが、富裕層の視点からはあるいは有効な手立てとなるのではないか。
海外では、就職に関する面接や、ビジネス上の打ち合わせ、国際会議の実施など、高級ホテルをビジネスで日常的に使っている場面が多々みられるが、そうした観点からも隠れたカギではないだろうか。我が国でもコロナ禍ゆえに、「ホテル=宿泊施設」という固定観念は薄れては来ているものの、コロナが終わればホテルでのテレワークも終わりとなりかねない雰囲気もある。そうした雰囲気をまずは福岡から打破する、ということでも国際金融都市の素地形成という意味では有効ではないか。
また、北京、上海、東京が国際金融都市の優位な候補地とされているように、アジアの国際金融ハブとして存在していくには、産業の集積地、物流の拠点としての「後背地」が存在していることも条件と考えられる。
福岡は明治時代以来、“日本の産業革命発祥の地”である官営八幡製鉄所の建設などをきっかけに工業地帯として発展してきた北九州エリアを含む後背地経済を持つことから、国際金融都市の条件をクリアしているといえる。九州・山口の人口規模は約1,400万人で、日本の人口の約11パーセントに相当し、都道府県別GDP(県内総生産)の合計では約53兆円で、イラン、ベルギーなどの経済規模と同等の数値である。(参考)。さらに今後、経済基盤を強化するには、産業革命の伝統をもとに未来への発展を志向しなくてはならないだろう。
そこで、比較しうるのは今年6月のG7サミット開催地として選ばれた英国南西部の保養地・コーンウォールである。ジョンソン英首相は、コーンウォールについてこのようにコメントしている:
「200年前、コーンウォールのスズと銅鉱山は英国の産業革命の中心だった、そして今夏、コーンウォールは再び大きな世界的な変化と進歩の中心となるだろう」(参考)
英国政府は、コーンウォールについて「この地域はすでにグリーンイノベーションの原動力であり、パンデミックからの復活に焦点を当てたサミットのための理想的な舞台」参考)と評しているように、かつて産業革命をリードしたこの地は、今では、重要資源であるリチウムの採掘、洋上風力発電計画、デジタル産業などによってイノベーションをリードしていくことが期待されている地域でもある(参考)。
以上のように、国際金融都市としての諸条件が整うのかを考察することで、福岡がG7サミット誘致という目標を達成するかどうかを占うことができるのではないだろうか。
そして、福岡でG7サミットが開催されれば、産業革命の伝統という魅力を存分に発揮することが可能である。日本で産業革命といえば、2015年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として世界遺産登録された数々の関連施設があるが、このうち、北九州エリアには「官営八幡製鉄所旧本事務所」や製鉄所の取水・送水施設である「遠賀川水源地ポンプ室」が存在する(参考)。G7サミットでは事前に、各国首脳の補佐役である「シェルパ」らによる準備会合が行われるが、こうした機会を利用して、G7サミット本番のハイライトでもある夕食会場として世界遺産登録施設の活用などを提起することもできる。
長年ライバル関係にあるともいわれる福岡と北九州が大同団結してG7サミットを開催すれば、同地域の発展への注目が一層高まることが期待される。
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倉持 正胤
株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
青山学院大学大学院国際政治経済学研究科・国際政治学専攻修士課程修了。民放テレビ報道局にて国際ニュース部門、デジタルメディア編集などを担当した後、2021年8月より現職。