黒坂岳央(くろさか たけを)です。
昨今、以前よりフランクに「ブラック企業」という言葉が使われるようになった気がする。ブログ、YouTube、SNS投稿で「自分はブラック企業による犠牲者だ」と主張する人も見られる。
確かにひどい労働環境で働き救うべき人もいる一方で、「それは会社ではなくあなたの働き方に問題があるのでは?」と感じることや、「給料たくさんもらっていながら、勤務時間が長いというだけでブラック認定?」と疑問を感じることも少なくない。
最初にお断りしておくと筆者は、ブラック企業を擁護するするつもりは1ミリもない。個人的にもブラック企業勤務のつらい経験をしているし、世のブラック企業は、人の一度しかない人生を棒に振ってしまいかねない、憎むべき組織だと思っている。
だが、そこを考慮した上であえて「ブラック企業は恐ろしい。だが、ブラック社員はさらに恐ろしい」と主張したい。ブラック企業ほどはあまり取り沙汰されない、ブラック社員について論考したい。
ブラック企業とブラック社員
まず、ブラック企業とブラック社員を定義したい。
ブラック企業の定義は、「低賃金・長時間労働」「パワハラ・セクハラの横行」「ガバナンス・コンプライアンスを軽視する経営陣」といったところだろう。多くの読者にも脳内で連想される企業があるかもしれない。
そしてブラック社員はブラック企業ほど、一般的に語られるシーンが多くないため筆者の個人的観点で次のように定義を考えた。
- 義務を果たさず、権利ばかり主張する
- 労働生産性が支払う給与以下で雇用のメリットがなく、本人にも改善意欲がない
- 不平不満を撒き散らし、他者の勤労意欲を奪う
- 横領などコンプライアンス違反に及ぶ
といった項目が当てはまる労働者といえる。
要するに経営陣にとって雇用して給与を払うビジネスメリットがない従業員と定義できそうだ。
ブラック社員が生まれるのは企業の責任?
「ブラック社員などというが、彼らも会社の犠牲者だ。会社がまともであれば、このような人物が生まれるだろうか」と反論がありそうだが、個人的にはブラック社員が生まれる理由は必ずしも企業側にあるケースに限らないと思っている。筆者が過去に勤務していた会社には、数々のブラック社員がいた。
労働成果物が芳しくないのに、「この会社は社員の努力を認めない!昇給するべきだ!」という従業員を見てきた。しかし、周囲からすれば「昇給を望むなら、まずは昇給したくなるような仕事の成果を出してからでは?」という印象を受ける。これは自分の仕事を相対的、客観的に評価する力が欠けていることによる認識のズレと言えるだろう。
また、仕事や人間関係で愚痴不満ばかりをいうのは、会社の問題と言うより本人の精神の健全性か、価値観による理由が大きい。横領に出るのは、会社のガバナンスの脇が甘いという指摘もあるかもしれないが、そもそも会社の資産を奪うという行為に及ぶのは犯罪行為で論外であり、本人の倫理観欠如にこそ問題があるといえる。
昔と比べるとブラック経営は難しくなった
企業側に問題があるケースもゼロではない。しかし、日本の雇用の法制度上、会社は正社員をクビにするのは非常に難しい一方で、従業員は自由に退職できる権利がある。会社の責任でまっとうな人物がブラックに染まるようなケースがあるなら、やめるという選択肢を取ればいい(過酷な環境下では冷静な判断力が奪われているという反論もありそうだが、それは別のテーマでの議論が必要だろう)。
今どきはブラック経営などやってしまえば、すぐにSNSに流出したり労基に報告が届き、瞬時に社会問題化する。問題がある会社として、名前を出されてしまえば即座にビジネスが成り立たなくなるだろう。筆者は経営者の立場なので分かるのだが、従業員を大事に取り扱わないと退職され、そうなると困るのは自分自身である。社員がイキイキと仕事をしなければ、労働生産性がかえって低くなり、そうなればリターンが皆無となる。まともな経営者は、ブラック経営などやろうとも思わないだろう。
現代は「24時間働けますか?」の標語があった昭和時代ではない。もちろん、未だにブラック企業はある。それはよく分かっている。だが、昔に比べれば状況はかなり改善しているし、今後の未来は更に良くなるだろう。
ブラック企業より恐ろしいのはブラック社員
会社ばかりが目の敵にされがちだが、個人的にはブラック企業以上にブラック社員の方が恐ろしいと思っている。
件の通り、ブラック企業への風当たりは強く、時間の経過で自然淘汰していく運命にある。筆者も運悪くブラック企業にあたり、毎日夜中3時まで違法行為を繰り返す問題企業で就労した経験があったが、数ヶ月で自主退職した。問題のある会社はやめればいいし、就業前にリサーチをすることで情報を得ることもできる。
だが、ブラック社員を抱えてしまった企業に同じ選択肢は取れない。仕事をせず、スキル向上の意欲もなく、不満ばかりいって会社にしがみついて、企業コスト増となり周囲の真面目な社員の足を引っ張る人物でもやめさせることが出来なくなってしまう。下手をすると「家に居場所がないから遅く帰りたい」「残業代を稼ぎたいから会社で仕事するふりをする」という社員にしがみつかれてしまえば、会社にとっては迷惑でしかない。
ブラック社員が増えれば、労働市場の流動性を悪化させ、適材適所が進まず、企業の生産性は低下する。そうなれば、まっとうな精神とスキルを持ち、勤労意欲の高い人が転職できなくなる悪循環だろう。そうなると、損を被るのはまっとうな気持ちで懸命に働く経営者と社員なのだ。
ブラック社員はブラック企業より恐ろしい。なぜなら間接的にブラック企業を作っているといっても過言ではないだろう。
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