オミクロンのピークアウトはいつか:山火事理論で予測

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(モンテカルロシミュレーションで検証 連載48)

山火事理論を用いた、過去のオミクロン株予測の検証と、今後の日本を含む世界15カ国のオミクロン株の予測を行います。

1.山火事理論による予測の意味するもの

昨年の11月から導入した山火事理論は、感染拡大の上昇フェーズの陽性者データから初期条件を決定すると、その後のピークアウトの時期、大きさ、ピークの幅が全て決定される、つまりピークアウトのメカニズムを内蔵している理論です。

それまで行ってきた本連載の現象論的取扱いは、既存データを再現するようにパラメータを変化させ、経験則を含めてその延長として予測するものでした(AIによる予測もこの類に入ると思います)。このようなピークアウトのメカニズムを内蔵していない予測とは根本的に異なります。

現在、山火事理論の更なるブラシュアップと定式化を進めていますが、同時に、この理論を現実の現象に適用した場合、どの位データの再現性があるか、多くの国のデータに対して、どの位普遍性と予測性能があるか、を検証しています。

2.実効再生産数Rtの引き起こした問題

現状把握や予測の指標としてよく使われる「実効再生産数Rt」について再びコメントします。Rtの定義は、「ひとりの感染者が何人の人に感染させるかの人数」です。

図1は、日本の陽性者のデータと計算結果から簡易式(東洋経済方式)で求めたRtです。上側がRt(左右とも同じ)、下側が陽性者(左が線形、右が対数表示)の時間変化です。第5波と第6波を入れると、それ以前があまりに小さくなって見えないので、昨年6月の第4波までの図を使います。

左の図で、Rtと陽性者の変化を比較すると、第1、2、3、4波の大小の関係が逆に見えます。Rtは陽性者の変化の「倍率」に比例します。右図の対数表示で見ると、陽性者の変化は、第1波が一番急で、第2、3、4波と上昇の傾きが緩やかになっています。Rtの大きさはこれを反映しています。しかし、Rtはあくまで「倍率」の指標なので、変化「速度」(微分値)とも違います。

例えば指数関数で上昇もしくは減少する場合、「速度」は変化しますが、Rtは一定になります。Rtの大きさや増減が、陽性者数の変化の様子を直感的に示す指標にはなっていません。

では、どのような問題でRtが重要かというと、人口問題や原子炉の実効倍増係数のように1との大小がシビアな問題では甚だ重要です。あくまで1との大小が重要な指標です。それ自体の値の増減を、他の現象の変化と相関を取る、もしくは、Rtを外挿して予測する、ということは適切ではありません。

更にSIRモデルのように陽性者全体を変数とする一体の方程式では、Rtの定義、「ひとりの感染者が何人の人に感染させるか」、ということを定義通り直接計算できません。ある近似を入れて間接的に導出しています。モデルのダイナミカルな変数ではないものを指標にすることも不適切です。本連載では、微分方程式の解法に、テスト粒子を使ったモンテカルロ法を用いているので、個人間の多体の相関であるRtを直接計算できますが、上のような理由で指標としては用いていません。

3.ヨーロッパのデルタ株、オミクロン株の予測の検証

フランス、スペイン、ドイツ、ベルギーの4カ国について、山火事理論を用いたデルタ株とオミクロン株の予測(本連載45)の検証です。下の図は、1月1日の予測と現在までのデータです。

スペイン以外は、まだピークアウトしていないので、確定的なことは言えませんが、山火事理論によるオミクロンの予測は、ピーク位置はほぼ合っているようです。ただ、大きさは大分データからずれてきています。

山火事理論では、初期状態を決めてやると、ピークアウトの時期、大きさ、その後の収束が決まってしまいますが、これら4カ国の初期状態は、オミクロン株の立ち上がりの初期1月1日までのデータで決めたもので、その不確定さが大きく出たものと思われます。

この点を考慮すれば、山火事理論の予測性能は良好です。今後、定量的に検証していきます。

4.日本のオミクロン株の予測

図3に日本のオミクロン株の予測(1月23日再計算)を示します。

左図上が実効再生産数Rtのデータ(青)と予測値(赤)、陽性者データの微分値(緑)と予測値(水色)。左図下が線形表示での新規陽性者のデータ(青)と予測値(赤)。右図は対数表示で、新規陽性者のデータ(赤)と予測値(黒)、死亡者のデータ(青)と予測値(黒)、60歳以上の新規陽性者のデータ(緑)と予測値(橙)。左右の図とも山火事理論の陽性者の予測線には理論に基づく系統誤差(朱)が示してあります。

予測線は、陽性者の急上昇が一段落した後の1月23日までのデータで初期条件を決定したものです。この図ですと、ピークアウトは2月10日、ピーク値12万4千人の陽性者で、その後収束という予測です。(前回1月7日の予測の約2倍です)

陽性者数の微分値(緑)をRtとの比較のため表示しています。Rtに表れている今回の鋭いピークは、陽性者数の1月初めの垂直上昇とその後の少し緩和した上昇を反映したもので、ピークアウトの先行指標ではありません。これも誤解を生む指標です。

一方、微分値の振舞いは、その定義通り、ピーク位置が変曲点、ゼロ切る点が陽性者のピークを表しますから指標としては明確です。

今回、山火事因子Y(t)というものを定義しました。

山火事理論では、「燃えやすい所が燃え尽きる」という仮説に基づいていますから、ひとつの山で感染者総数S0が全体を規定します。数値解法では、このS0を逐次代入法で自己無撞着に解きます。D(t)を日毎の陽性者数とすると、Y(t)は感染可能な残り人数を、感染者総数S0で1に規格化して表しています(朱破線)。

現在の予測でオミクロンでの総数S0が455万人、現在までの陽性者55万人で、一割強落ちています。例えば今後、無作為サンプリングでPCR検査をすると、この因子に従って陽性率が下がるはずです。

図3左では、RtとY(t)の下降の様子は相似ですが、あくまでも山火事因子が原因(メカニズム)で、Rtはその結果です。Rtを基に予測を行うと、データ解析やAI予測になってしまいます。この場合、モデルがないのでメカニズムの議論はできません。

その結果、「なぜ下がったか理由が分からない」という発言になります。また、予測が外れた場合の原因検証は、モデルの発展には必須のものですが、モデルがない限り、予測が外れた原因をいくら推測しても、その知見を使って、次へ発展させることができません。

世界的な新型コロナ感染拡大には、各国の国情の違い、対策の違いが甚だ大きいにもかかわらず、変異株毎に感染が拡大して必ず収束し、更に、その高さはまちまちであるものの、ピークの半値幅はほぼ同じ値を示す、という事実が観測されています。ここには何らかの法則、メカニズムがあるはずです。今回、山火事因子Y(t)というものを定義できるようになったこと、これがまず第1歩です。

5.世界15カ国のオミクロン株の予測と検証

以下に南アフリカ、日本を含む世界15カ国の昨年5月からの陽性者データと山火事理論によるオミクロン株の予測を示します。各図は、陽性者の対数表示で、各国のデータに係数を掛けて縦に並べています。

5.1 スペイン、フランス、スウェーデン、ドイツ、ベルギー

図4は、1月1日までのデータを使って予測した、ヨーロッパ5カ国、上からスペイン、フランス、スウェーデン、ドイツ、ベルギーです。これらの国々は昨年の10月の中旬から同期してデルタ株の2度目の上昇が始まり、11月の末から12月にかけてピークアウトを迎えました。

その後、スペイン、フランス、スウェーデンは、連続してオミクロンの上昇が始まったので、そのままひとつの山を形作る予測になっています。一方、ドイツ、ベルギーは、一度ピークアウトした後、新たにオミクロンの上昇が始まるツインピークのような形になっています。

スペインは既にピークアウトしていますが、他の4カ国は依然急上昇をしています。オミクロンの亜種の情報がありますが、今のところまだその詳細は分かりません。

5.2 トルコ、イギリス、アメリカ、南アフリカ、オーストラリア

図5は、トルコ、イギリス、アメリカ、南アフリカ、オーストラリアです。予測は1月1日までのデータで行い、イギリスはピークアウトした後、幅が広すぎたため、1月17日に、南アフリカで用いた幅を狭める因子を入れて修正しています

この因子は不顕性感染者の効果の度合いで、幅を狭める因子をまだ入れていないのは、アメリカ、トルコとヨーロッパの5カ国です。

オーストラリアは、予測線はだいぶずれて、予想より早くピークアウトしています。

5.3 ブラジル、モンゴル、インド、イスラエル、日本

図6は、ブラジル、モンゴル、インド、イスラエル、日本の5カ国で、1月1日までのデータで予測したものを急上昇の後の1月17日までのデータで修正しています。日本は更に1月23日までのデータで再修正しています。

ブラジルとイスラエルが、ピークのところに更なる山が追加されたように見えますが、オミクロンの亜種の効果かどうかはまだ分かりません。