2019年10月ぶりに、バイエルン放送響。最愛指揮者がいないこのオーケストラを聴くのは初めてだ。
プログラムを開くと、Chef principalの欄にMariss Jansons。ヤンソンス&バイエルン放送響がくれたたくさんの感動と幸福を思い出して、目が潤む。
今夜の指揮者はヤニック・ネゼ=セガン。何年か前に一度だけ、ベルリンフィルで聴いた。感動的な演奏会だったけれど、あれはベルリンフィルだからなのか、それともネゼ=セガンもやっぱりよいのか、今夜確認できるかな。
ハンス・エブラハムセン”Vers le silence(静寂の方へ)”。2020年、コンフィヌマンの中で作曲した作品だそう。なんでも素数がテーマで、自然界の4大要素に第5の要素を加えてなんちゃらかんちゃら。説明読んでも全然意味がわからない。音楽自体も、なんだかよくわからない。30分もの大作だけど、その間ほとんどずっと、聴き手になんとも言えない緊張感を与えてくる。こういうのも、来世紀には古典と言われるようになるのかしら。
エブラハムセン、このヨーロッパツアーに同行しているようで、5列目くらいで難しい顔しながら聴いてる。演奏後の拍手の中、舞台に上がってネゼ=セガンと共に喝采を受ける。う~ん、わからない。。。せっかく大好きオケの大好き大規模編成なのに、この曲じゃもったいない。これでシュトラウスやワーグナーをやって欲しかったな。
アントラクトを挟んでから、後半は、クララ・シューマン”ピアノ・コンツェルト”とブラームス”シンフォニー3番”。この2人の作品を、アントラクトなしに並べるの、素敵ね。
レナの演奏は可もなく不可もなくだけれど(セロとの掛け合いのセロが素晴らしい)、作品はとてもチャーミング。これ、クララは14歳とか15歳で作曲したそう。すごいね。ショパンのコンツェルトを思い起こすイメージで聴きやすい。初演、ソリストはもちろんクララ、指揮はメンデルスゾーン、オケはゲヴァントハウス。オールスター!一曲目はものすごく緊張した表情で弾いてオケメンバーがこの曲は嬉しそうな笑顔で弾いてる。あの曲、やっぱり演奏者にも緊張感強いるのね(笑)。
アンコールは、ネゼ=セガンとの連弾で、ブラームスの有名なワルツ。演奏前にネゼ=セガンが「この曲をニコラ・アンゲリッシュへのオマージュに」とスピーチ。美しい演奏だけれど、レナだけのアンコールも聴きたかったな。
ピアノがさっと舞台袖に下がって(フィルハーモニーは構造がよくできているので、ピアノの出し引きもスピーディー)椅子がいくつか足したり引いたりされた後、ブラームス3番。
突端から、おぉぉ?これがブラームス?という、新鮮な解釈。ダイナミックで雄大でスピーディー。情緒豊かで優しいイメージのブラームスとはちょっと違う、鮮やかで雄々しいブラームス。なんだか、シュトラウス聴いているみたい。
2楽章半ば、4楽章半ばもいいなあ。逆に、3楽章など柔らかな部分は、いわゆるブラームス的な情緒はあるものの、そこまでの感動はない。どうせなら全部ダイナミックに解釈しちゃえばそれはそれで面白かったでしょうに。ヤンソンスのように、優しい部分をあきさぜずにニュアンス豊かに聴かせることは、ネゼ=セガンには難しい。(主な活躍場所がNYCやフィラデルフィア、というのもあるのかしら。)
気持ちのよい弦、そして大好きなホルンソロに加え、クラリネットソロも天空に立ち昇っていくような素晴らしい響きでうっとり。本当にいいオーケストラ。
楽章の間に休みを取らず一気に振りきったネゼ=セガン。好き。あの数秒の間で、意識が現実に引き戻されちゃうのだもの。たかが30分強、休みなしで全然OK。ブルックナーの1楽章分より短いし(笑)。
鳴り止まない拍手の中、何度目かに戻ってきた指揮者が言う「このオーケストラは宝物です」。さらに大きな拍手に包まれる中、弦のトップたちに今の言葉をドイツ語に訳してあげてる。そして、オケメンバーたちは笑顔で抱擁を交わし、ヨーロッパツアー終了。
2023年シーズンから首席指揮者にラトルを迎える、バイエルン放送響。来シーズンは信じられないことにパリ公演がない。
来シーズン、パリは受難。ベルリンフィルも来ないし、ウィーンフィルはいつもなら二度くるのに一度だけ。ベルリンとミュンヘンに、行きたいな。
編集部より:この記事は加納雪乃さんのブログ「パリのおいしい日々4」2022年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「パリのおいしい日々4」をご覧ください。