スペインは天然ガスのロシアからの依存は少なく、これまでアルジェリアからの供給に多く依存して来た。ところが、アルジェリアのライバルであるモロッコからの圧力で、スペイン外交は急転換。冷却していたモロッコとの関係回復に動いた。
それがアルジェリアの癪に障ってスペインとの関係が悪化。アルジェリアはイタリアへの供給に重点を移す意向を表明。それに乗じて早速イタリアのドラギー首相がアルジェリアを訪問するという出来事があった。
モロッコがスペインの意表を突く
4月に入ってスペインのサンチェス首相がモロッコの圧力の前にスペインの外交方針を180度転換。急遽モロッコを訪問するという出来事があった。
それから僅か10日後にモロッコ政府はスペイン・カナリア諸島を構成するランサロテ島とフエルテベントゥラ島の近海で鉱物資源の発掘調査を開始することを発表した。
海底1000メートルに原油、コバルト、レアアース、プラチナ、テルルなどが埋蔵していると見られているからだ。推定で10億バレル分の原油を採油できると推測されている。それは現在の原油価格から見て1000億ユーロ(12兆円)に相当するもので、モロッコの1年分のGDPに匹敵するものだとされている。
採油となった場合に、その25%がモロッコの国立炭化水素・鉱物公社(ONHYM)の利権になるとされている。
この発掘調査がスペインとの間で微妙な関係をもたらす可能性がある。というのは対岸の西サハラを含めたカナリア諸島の海域には10万9000平方キロメートルにわたり原油と天然ガスが埋蔵されていることが確認されてはいるが、スペインは環境保護を尊重するということで、その発掘調査を中断している。
スペインがこの採掘調査を実施したのは2015年のことで、それを担当したのは石油と天然ガスの最大手レプソル社だった。ところが、環境保護を優先すべきだとして環境保護団体やグリーン・ピースなどから妨害されて結局十分な調査の出来ない儘に同社は撤退したという経緯があった。
スペイン領海に非常に近いところでの開発は問題になる可能性も
今回モロッコが2か所で発掘調査に乗り出すことになっているが、それはスペインの領海にある原油と天然ガス田の延長線上にあるということ。しかも、両国が沖合350マイルまでを自国の領海と主張していることで、スペイン側から見ればモロッコの今回の2か所の発掘調査はスペインと領海権で微妙な関係にあるところである。勿論、モロッコ側から見ればモロッコの領海圏に入ると判断している。
この領海圏の主張はスペインは2015年に行い、モロッコは時を移さず同様の主張した。
モロッコによる海底資源の開発を傍観するようになるスペイン
モロッコが発掘調査を開始するというのに、スペインは駒を進めずにいるということはスペインが保有する自然資源とカナリア諸島の経済の発展を危険に晒すことになる、と指摘しているのは政党カナリア連合のフェルナンド・クラビホ委員長だ。
その一方で、カナリア諸島州のアンヘル・ビクトル・トッレス州知事はカナリア諸島の領海は環境保護の関係から1ミリたりとも触れさせないと2年前から表明していた。
ところが、モロッコ政府はサンチェス首相が同国を訪問して両国の関係が改善されたあと1週間後に一方的にカナリア諸島の近海で発掘調査をすることを発表。
サンチェス首相の訪問で両国が合意に達した内容は今もメディアには明らかにされいていない。
スペインとアルジェリアとの関係は悪化するばかり
今回のサンチェス首相のモロッコ訪問に憤慨しているアルジェリアだ。アルジェリアがスペインに送った天然ガスがモロッコに転売されるような事態になればアルジェリアはスペインへの供給を停止する意向であること4月28日付のメディアが明らかにした。(4月28日付「ABC」から引用)。
この報道内容が意味するものは、スペインとモロッコの間でスペインからアルジェリアの天然ガスをモロッコに転売することが話されていた可能性があるということである。
今回のサンチェス首相のモロッコ訪問はアルジェリアとの外交関係を完全に損なうまでに汚点を犯したということである。その見返りがどこまであるのか未知数である。