会長・政治評論家 屋山 太郎
台湾の正式国名をなんと呼ぶべきなのか。「中華民国」という言葉は、死語になったとはっきりと言うべきだろう。「中華民国」は1912年1月1日に革命家孫文の臨時大統領選出により中国大陸で成立した国の名前だ。その1ヵ月後、300年間に亘って大陸を治めてきた清王朝が滅亡する。当時、台湾は日本が統治していた。従って当時の台湾にとって「中華民国」は全く無関係な存在だった。
以上は、拓殖大学政経学部の丹羽文生教授の説だ。ところが日本が第2次大戦で敗れると、台湾は蒋介石の「中華民国」政権に接収されてしまう。蒋介石はここで大陸反攻を掲げて暴政を振るう。しかし李登輝政権による自由化の後、台湾は大陸反攻を取り下げ、「中華民国在台湾」(台湾にある中華民国)という表現を多用するようになる。
20年程前、フランスの片田舎の駅で若いアジア系女性に会ったので「チャイニーズ?」と尋ねたところ「ノー、タイワニーズ」と毅然と返答されたのは嬉しかった。
今、台湾を国の由来から考えて中国大陸の派生国家と考える人が多い。しかし台湾と大陸の文化的な差は大きい。考えてみれば台湾人と日本人は約50年間、共に日本人だったのである。その名残は挨拶やら習慣に多様に残っている。
台湾では47年2月28日に大陸人による台湾人弾圧事件が起きたが、その反目を巧みに制御しながら李登輝総統が見事な民主主義国を作り上げた。台湾人は習近平主席による「一国二制度」の約束を断固として拒絶している。これは自らの自由・民主主義は絶対に捨てたくないとの願いからである。
香港に対する同様の約束は、23年間しか続かなかった。仮に台湾が「二制度」の前提の元に一国に統合されたらどうなるか。その約束が旬日の内に反故にされるのは明らかだろう。香港と台湾の差は武器を持っているかどうかの差だけだ。香港の二の舞にならないためにこそ、台湾は強力に反撃できるだけの武器を持つ必要がある。
ロシアのウクライナ侵略を見て、このご時世に人の領土を欲しくなって攻め込む暴君がいるのかと驚いた。この暴虐が許されるなら国連の存在など全く無意味だ。かといって国連の改革も不可能だ。
そこで国造りの手順だけは、改めて定めるのが上策だ。まず国を造りたい集団は集まって国造りのための選挙を行う。そこで一致すれば建国の要件が整う。領土、国民、政府、外交能力の4つを持つものこそ独立する権利がある。大陸の中国人がモンゴル、ウイグルなど他民族を大弾圧して自民族に同化するなどは国際法違反もいいところだ。中華思想と言われる他民族支配の願望は改めて禁止されるべきだ。
「台湾独立」とは「『中華人民共和国』からの独立」を意味するが、そもそも台湾は中華人民共和国の支配を受けたことがない。「独立」という言葉を使うこと自体、筋違いだ。
(令和4年6月8日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年6月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。