矜持か責務か、美浜原発の稼働前倒しに感謝

美浜発電所
出典:関西電力HPより

報道によれば、美浜原子力発電所3号機の運転再開は、予定では10月でしたが需給逼迫が懸念される8月へと、2か月も前倒しされることになりました。

何であれ「計画を前倒しする」には必要以上の労力と精神的な負担がかかるものですから、今回の関西電力や美浜原子力発電所の決心と準備も大変だったのではないかと想像します。従来から原子力発電の再稼働促進を求めてきた一人の国民として、その企業努力に心から感謝申し上げます。

福井・美浜原発3号機、8月再開…2か月前倒し

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【読売新聞】

関西電力は10日、美浜原子力発電所3号機(福井県美浜町、出力82.6万キロ・ワット)の運転を8月に再開し、12日から送電を始めると発表した。これまで再開時期を10月17日としていたが、東日本大震災後に設置が義務付けられたテロ対策施設が想定よりも早く完成する見通しとなり、2か月前倒しする。(読売新聞)

わずか“0.3%”の上積みに意味はあるのか

まず、送電開始が8月12日からとも報じられており、今回の再稼働前倒しによって需要期である真夏の8月に間に合わせたということの意義は大きいと考えます。すると次の関心は、

「その再稼働によって、一体どれくらい供給に余裕ができるのか」

となりますが、別の報道によれば、それは「0.3%」だと伝えられます。

美浜原発3号機、再稼働8月上旬に前倒し 電力供給を改善へ

美浜原発3号機、再稼働8月上旬に前倒し 電力供給を改善へ | 毎日新聞
 関西電力は10日、定期検査で停止中の美浜原発3号機(福井県美浜町、出力82・6万キロワット)の再稼働時期を当初予定から2カ月前倒しし、8月上旬とすると発表した。設置が義務づけられているテロ対策施設「特定重大事故等対処施設」(特重)の工事計画見直しや作業効率化などで工期を短縮。今夏は全国的に電力供給

東北から九州までの供給余力を示す8月の予備率(4.4%)を、関電のグループ企業の試算で0.3%程度上積みできるという。

数値で聞くとあまり大きな印象はありませんが、これは「予備率4.4%」という見通しに対して「0.3%」(記事の書き方が曖昧だがパーセントポイントと推定)を上乗せされて「4.7%」になるという意味であれば程度においても大きな貢献です。「わずか0.3%」と感じてしまう上乗せが大きな貢献だと言える理由は次の通りです。

「需給ひっ迫警報」の基準は予備率3%

今年3月22日には「電力需給ひっ迫警報」も発令され、実際に需給はひっ迫し、首都圏を中心に緊張感が走りました。節電要請への協力などの甲斐もあって、実際に超過が発生しても計画値の107%という状況でした。今回の超過分は揚水発電他で対応可能な範囲内であったため、ぎりぎり停電を回避することができました。とはいえ「供給能力が需要に応えられない」という現実はすぐそこまで迫っていることも覚悟せざるを得ないできごとでした。

この「需給ひっ迫警報」が発令される基準は「3%未満」とされており、夏の予備率見通しが「4.4%」と「4.7%」では印象以上に大きな違いがあります。美浜原発再稼働による「0.3%」の積み増しによって、基準値に達する余裕が「1.4%」から「1.7%」に上がるからです。

つまり「予備率3%」という基準値の意味を考慮すれば「わずか0.3%」ではなく「0.3%も」上乗せされると認識すべきであり、その意義は大きいといえるでしょう。

この夏 7年ぶり全国に節電要請 需給ひっ迫で「注意報」新設も

エラー|NHK NEWS WEB

【電力需給ひっ迫警報】
さらに、予備率が3%を下回ると予想された場合には、対策を強化するため「電力需給ひっ迫警報」を発令し、一層の節電を呼びかけることにしています。

【参考】
2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について』(2022年5月17日資源エネルギー庁)

東京の3%未満となったのは2022年3月22日、23日の二日

東京エリアで電力需給がひっ迫した3月22日、当日の電力の使用状況を示すでんき予報において、10~15時の電気使用率が100%を超えた。

他の原発も続けば

1基でおよそ0.3%ですから、雑に計算してもあと9基ほど他の原発も再稼働が進めば3%程度の上乗せとなり、見える風景がかなり違うでしょう。

この夏には間に合いませんが、半年先の冬ならばまだ対応できる可能性はあるのはないでしょうか。

時代を切りひらくのはいつも美浜

同社ウェブサイトから美浜原発を説明するページを訪ねると次のような説明があります。

原子力の時代を切り拓いたパイオニアとして美浜発電所は当社初の原子力発電所、日本初の加圧水型軽水炉(PWR)として、昭和45年の大阪万博博覧会に「原子の灯」をともし、原子力の時代を切り拓きました。

大阪万博博覧会の会場に原子の灯をともした

美浜発電所の3基あるプラントのうち、1、2号機は平成27年4月をもってその役割を終え、国内のPWRで初めて、廃止措置という新たなステージへの一歩を踏み出し

美浜発電所3号機は、原子力規制委員会によって新規制基準への適合性が確認され、平成28年11月に40年超の運転期間延長の認可をいただきました。

そして今回もまた、美浜原子力発電所は大きな意義を持つ原発再稼働の前倒しを実行します。「大きな意義」と捉える理由ですが、その行為は「0.3%の上乗せ」という現実の効果に加え、他事業者の原子力発電所も再稼働促進に向けた一歩を踏み出すための精神的な“エネルギー”や動機になり得るからです。

ところで美浜発電所を説明するページの冒頭には、次のような所信表明がありました。

「パイオニアとしての誇りを胸にさらなる高みへの挑戦を続けていく」美浜発電所長 高畑勇人

原子力発電に反対する国内世論もあるので、特段の後ろ盾なく事業者自身が原発再稼働をすすめることは、逆風を真正面から受けることになりかねません。従って再稼働前倒しの決断と実行には“エネルギー”と勇気が必要だったことと思います。

もちろん、今回の再稼働がどのような意味を持つことになるのかは、実際に稼働が始まってからでなくては判断できません。しかし勇気ある決断を下した高畑勇人美浜発電所長をはじめとする美浜原発所員諸氏の「誇り」と「挑戦を続けていく」その心意気に深く敬意を表します。