ドネツクで「見せ物裁判」か?:ウクライナ志願兵に死刑判決

TASSより

ロシアの非政府系「インタファクス通信」は9日、ドネツク人民共和国(DPR)最高裁判所がウクライナの外国人志願兵3名(英国人2名とモロッコ人1名)に対し、傭兵活動の罪で死刑を宣告したと報じた。国営の「タス通信」も18分後、ほぼ同じ内容を報じた。

記事に拠れば、3名は「傭兵活動、権力の奪取と民主共和国の憲法システムの転覆を目的とした行動の遂行で告発されて」いた。「英国人2名は4月中旬にマリウポリで、モロッコ人は3月12日にヴォルノヴァハで、それぞれ自首してきた」とのことで、何れも1ヵ月以内に控訴する予定という。

同裁判所控訴院理事長ニクリン氏は、

検察官が提出した証拠によって、裁判所は彼らを有罪にすることができた」とし、「全ての被告が例外なく全ての罪状について罪を認めたという事実を含まない[…]、罪状は彼らの罪を認めたことだけに基づくものではない。
Not including the fact that all defendants without exception admitted their guilt on all charges […] the charge is based not only on their admission of guilt.

と述べた。

この後段の発言は、被告が認めた罪以外の証拠に基づく罪状をも含めて、死刑判決が下されたと読める。「大テロル」などとも称されるレーニンとスターリンの時代の、ソ連の「見せ物の公開裁判」(『共産主義国書』ソ連編より)は夙に世に知られるが、この裁判にも何やら同じ匂いが漂う。

筆者は3月半ば本欄に書いた、ウクライナ紛争で浮上した「傭兵」「義勇兵」「志願兵」についての記事で、2月末にゼレンスキー大統領が結成を公表した「ウクライナ国際防衛軍団」への入隊案内(3月7日の『Visit Ukraine Today(VUT)』に掲載)の内容を紹介した。

それに基づく米国での徴募事情の詳細も3月11日の『Epoch Times』の記事から紹介した。同記事には、ウクライナの法律では、外国人が任意でウクライナ軍に参加でき、その際、外国人だけで構成された軍隊内部の集団である国際軍団に加入するとある。

そして記事は「参加する米国人が、国際ルールや戦争犯罪を犯しておらず、ウクライナの法律を守っていれば、法的問題は避けられるはずだ」とする、安全保障担当の元国防次官補でペンシルベニア州立大学国際問題学部のメアリー・ベス・ロング教授の談話を載せている。

ロング教授の言う「国際ルール」とは、「武力紛争における国際法」(戦争が合法だった時代には「戦時国際法」と称された)では、「戦闘員」と「文民」とでその権利と義務に大きな隔たりがあることを指し、その根底には、国は私人の行為について国際責任を負わないとの概念がある。

つまり、戦闘員には戦争に参加する権利があり、敵の戦闘員を合法的に攻撃できるし、敵に捕まっても捕虜としての待遇を受ける権利がある一方、文民には戦争に参加する権利はないが、敵からも攻撃されない国際法上の保護を受ける。ロシア軍による民間人攻撃が国際法に違反する所以だ。

いま日本国内で議論されている自衛隊を憲法九条に明記する論も、目下の我が国の憲法上、自衛隊は軍(戦闘員)ではないので、国際法に照らせば戦場で「文民」扱いされかねないことが、その論の理由の一つにある。

そこでウクライナの「義勇兵」の扱いだが、「ウクライナ国際防衛軍団」のように軍内部の外人部隊であるなら、国家に身分を保証される軍人として扱われる。少なくともウクライナの法律上はそうなる。ウクライナが軍人と認めている志願兵を、DPRが勝手な解釈で死刑にして良いはずがない。

だからニクリン理事長の、「全ての被告が例外なく全ての罪状について罪を認めたという事実を含まない[…]、罪状は彼らの罪を認めたことだけに基づくものではない」などという不明確な物言いが報じられるのではなかろうか。

いずれにせよ政治的意図の感じられる裁判であり、判決だ。