夏季休暇のパンデミックと「その後」:新規感染者数は増加も反応は薄く

「われわれが夏季休暇を取っても、ウイルスは休まず働いている」

当地のウイルス学者はオーストリア国営放送とのインタビューの中で笑顔をみせながらこのように語っていた。

オミクロン変異株(独日刊紙ビルド2021年12月15日電子版から)

コロナの感染者数の上下に余り反応しなくなった

その発言を裏付けるように、オーストリアでは6月に入って新型コロナウイルス(Covid-19)の新規感染者が徐々に増え、6月末にはとうとう1万人の大台に入った。同国保健相省によれば、7月1日の新規感染者数は1万0424人だ。

入院患者数(870人)と集中治療患者数(49人)にはまだ大きな増加は見られないことから、重症リスクが高くないとして、国民の間には今年1月、2月のような緊迫感は見られない。多くの国民は2年ぶりの夏季休暇をいかに楽しむかに関心がいき、新規感染者数が1万台に突入したというニュースを聞いても、危機感が感じられない。

世界保健機関(WHO)によれば、隣国ドイツでは6月下旬に入り、新規感染者が10万人を超える日が続いた。英国でも1万6000人を超えており、増加傾向にあることから、新規感染者の増加傾向は欧州全域でみられる現象だ。

感染の主流ウイルスはオミクロン株の新系統「BA.4」と「BA.5」。ちなみに、オミクロンBA.1に感染し、免疫を得た回復者もオミクロンの新しい亜系統(BA.4およびBA.5)によって引き起こされる症候性疾患に対しては限定的にしか防御できない、というデータが出てきている。

オーストリアでは政府が6月1日を期してコロナ規制(マスクの着用義務など)を大幅に緩和したこともあって、コロナ検査を受ける国民の数は急減した。3-G(接種証明か治癒証明かコロナ検査による陰性証明のいずれか)は必要なく、国民は病院に行くため、といった特別の場合を除いて、PCR検査を受けなくなった。

月5回まではコロナ検査は無料、それ以上は自費で検査を受けなければならない。症状が出ない場合、人々は検査を受けない。にもかかわらず、新規感染者数が既に1万人台を突破したということは、感染者の実数はもっと多いと予想されるわけだ。

ウイルスは気温の高い夏季には感染力を落とすこともあって、多くの国民はマスクなしで様々なイベントにも参加、その結果、新規感染者数は増加してきた。メディアもロシア軍のウクライナ侵攻関連に注意が注がれ、コロナの感染者数の上下に余り反応しなくなった。

今後の動向に注目

オーストリアでは6月1日よりマスクは病院、介護施設以外は着用義務はなくなったが、新規感染者の急増を受け、ヨハネス・ラウフ保健相は夏季休暇後はマスクの着用義務の再導入を考えている一方、65歳以上の高齢者には4回目のワクチン接種を呼び掛け、国民には自己責任でコロナ規制を実施すべきだとアピールしている。

オーストリアのコロナ対策諮問委員会(GECKO)のチーフメディカルオフィサーのカタリーナ・ライヒ氏は、「夏のパンデミック波のピーク時は、1日あたり最大7万人の新規感染者が予想される」と指摘する一方、コロナウイルスに対する薬の入手を容易にすることを提案している。

GECKOによれば、ワクチン接種と投薬の組み合わせが、厳しい経過に対する最適な保護パッケージという。ちなみに、既存の48万7465件の治療件数の中で、投薬されたのはわずか4.1%に過ぎない。そこで電子処方箋と一般開業医への直接発行を通じてCoV薬の利用の簡素化を支持している。

同氏によると、現在の波がいつピークに達するかについては、バケーションの季節、学校の閉鎖など多くの不確実な要因があるから正確には予測できないという。ただ、特定の感染数(1日あたり約2万人の新規感染者)を超えると、国民のリスク意識が高まり、その行動にも変化が出てくると期待している。

参考までに、ドイツの著名なワクチン学者クリスティアン・ドロステン教授(ベルリンのシャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は独週刊誌シュピーゲル(6月25日号)とのインタビューの中で、「Covid-19は人間の免疫システムから逃れる道を学んできている」と説明、9月以降の秋になれば感染が拡大する危険性が排除できないと指摘。

オミクロン株の新系統の感染力については、「従来のコロナウイルスとは違い、ドイツで今、最も感染している同新系統のウイルスは肺器官まで入っての感染拡大はせず、呼吸器官上部に留まっている。だから重症化はしないが、免疫が出来ないから何度も同じウイルスに感染する」と説明している。

夏季休暇シーズンが過ぎた後、欧州では感染力だけではなく、致死力も備えたオミクロン株の新系統ウイルスが台頭してくるかもしれない。そうなれば、欧州の国民はウクライナ危機とそれに伴う物価・エネルギー価格の高騰に加え、スーパー・コロナの感染拡大というダブル・パンチの状況に遭遇するかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。