会長・政治評論家 屋山 太郎
新しい中国が生まれようとしている。この新生中国は近代史上では見たことのない“軍事強国”である。過去30年間で軍事費を43倍に増やし、必ず台湾を暴力をもってしてでも征服するという。
台湾は共産中国に一度も征服されたことはなく、日本の併合が50年間と最も長い。中国への併合には7~8割の台湾人が反対している。戦後の国連条約では「民族自決」が常識となっている。ロシアのウクライナ併合戦争に世界中の国民が反対している。勿論、中国の台湾併合に賛成する国などよもやおるまい。
台湾と台湾関係法で結びついている米国は中国に対して「台湾侵攻なら代償を払う」と強く反発している。
ウクライナはロシアに対して強い武力反撃を行い、ロシアは周辺の旧ソ連圏の国々からも孤立した。これだけ国際規約を破れば、袋叩きになるのは当然だ。中国が台湾を攻撃すれば、中国が袋叩きになるのは当然だが、軍事大国である中国を簡単に参らせることも難しいだろう。
NATOがロシアを取り囲んだように、日米両国は中国の周りに同盟を作って封じ込めようとしている。まず日米安保条約があって、これに豪印を加えたクアッド(日米豪印)がある。安倍晋三元首相が「自由で開かれたインド太平洋」構想と名付けたが、対中政策を考えた場合、半永久的に続く国際秩序ではないか。
次の同盟は豪が米英と組んだオーカス(米英豪の安全保障枠組み)だ。これで「日米」「日米豪印」「米英豪」の3重輪が中国を取り囲んでいる。この中で若干不安な存在が豪州である。
豪州は1973年に「白豪主義」を取り払った後、中国・インド・中東系の移民がどっと入ってきた。この中国系移民が大金を払って国会議員を買収、それが与野党に及んでいることが分かって一大政変となった。結局、金品の受領者は政界を引退。外国からの政治献金を禁止する仕組みが出来上がった。とはいえ中国人は、国籍はどうあれ「中国のために尽くす」との決まりがある。これが戦時下でどう作用するのか。
豪米英同盟結成に当たり、豪は仏との10隻以上の潜水艦契約を破棄した。こういう振る舞いは西側先進国仲間ではあり得ない。豪州の主力戦力は潜水艦だと言われるので仏から英への注文替えは何か深いわけがあったのかもしれない。
日米側は太平洋の守りを強化するに当たって、太平洋に散らばる島々との関係を重視してきた。重要地点はソロモン諸島だが、近年そのソロモン諸島政府に中国が接近し、両国は親密な状態となっている。
他方、豪政府は近年、中国を牽制する動きを加速させている。米国の対中強硬策に追随するかのようだ。21年4月に豪政府は、ヴィクトリア州が中国と結んだ「一帯一路」に協力する内容の協定を破棄すると発表。これに対し中国は豪州と経済協力対話を無期限に停止すると発表している。
(令和4年10月26日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。