藤川賢治氏の記事「ワクチン接種が超過死亡と相関」への反論

ljubaphoto/iStock

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載55)

図1

図1の上段は藤川氏の記事の最初の図で、ワクチン接種数(青線)と超過死亡率(赤領域)の比較です。まず問題は、ゼロ点のベースラインを2種の変数についてずらしていることです。

ワクチン接種が超過死亡と相関
日ごとのワクチン接種数推移と超過死亡 3回目接種の山が超過死亡と重なる タイムラグが無いので不自然に思われるが…… 8月の超過死亡が例年を逸脱した激増となっており、原因はコロナかワクチンかと、言論サイト「アゴラ...

ここでやりたいことは、ワクチン接種と超過死亡の時間推移に相関があるかどうかを、その時期やピーク構造を比べて検証することです。2種の変数は異質のものですから、絶対値はスケールしなければなりません。その時、ゼロ点のベースラインまで動かしてしまうと、一方の正の領域でだけ比較することになり、ピーク構造の大事な指標である半値幅(ピークの半分の高さでの全幅)は、いかようにも変えることができてしまいます。

このような比較をする場合は、ベースラインを揃え、ピークの地点で高さを合わせなければなりません。そのようにして初めて直接グラフ上で両者の半値幅及びピーク構造が比較できます。藤川氏のダッシュボードを使ってベースラインを合わせてプロットにしたものが図1の下段です。大分印象が変わります。同じ藤川氏の図を第6波のピーク付近だけ出力させると図2になります。

図2 全世代ワクチン接種数(青線)と超過死亡率

まずこれが、第6波の超過死亡とワクチン3回目の接種数の相関を検証すべき図です。図1の最初の図とは印象が大分異なります。私が前回の記事で論じたのは、両者のピークの幅です。

ワクチン接種が超過死亡に寄与しているとすると、その寄与が最大でも、図2の青線が赤領域に収まっている必要があります。そのためには、青線を大きくスケールダウンする必要があり、結果青線の寄与は小さくフラットなものになり、赤領域のピーク構造を説明する主因にはなり得ません。

この点については、藤原かずえ氏から、ワクチン接種は高齢者から進められ、また、死亡に関係するのはほとんどが高齢者なので、高齢者に特化して相関を検討すべきという御意見をいただいたので、高齢者の接種に特化した解析を行いました。

藤川氏も同じ観点で、65歳以上の接種数と超過死亡率を比較しています。それが図3の上段です。ここでも図1と同じ問題である、ベースラインを動かし(しかも図1と移動量もスケール量も異なる)ピーク値も合わせていません。従って、この高齢者の接種数の推移が、図1の全年齢の接種数の推移のどこに当たるのかが判然としない図になっています。

そこで、同じ図に、図1の全世代の接種数を同じベースライン、同じスケールでプロットしてみると、図3の下段、緑線のようになります。この図より、高齢者の接種が先行して行われたことがよく分かります。

図3 65歳以上のワクチン接種数(青線)と超過死亡率(赤領域)、緑線は全世代のワクチン接種数

これでもまだ、ベースラインがずれているので、ベースラインを同じにし、ピーク値を揃えたものを彼のダッシュボードでプロットします。図4の上段の青線が全世代の接種数、下段の青線が65歳以上の接種数です。

図4 ピーク値にスケールした、全世代ワクチン接種数(上段)、65歳以上のワクチン接種数、と超過死亡率(赤領域)

更に、この両者を同じ図にプロットしたものが図5です。

図5 全世代接種数(上青線)、65歳以上接種数(下青線)と超過死亡率(赤領域)

これで、やっと藤川氏の示した図と、私が前回の記事で示した図が同じ内容になりました。

ここからが藤川氏と意見が分かれるところです。藤川氏の見解は、高齢者の接種数は、ワクチン接種の効果の表れるタイムラグを考慮しても、超過死亡のピークを誘発している要因になり得る、というものですが、即死のような短期的な死亡が多数起きていたとすれば、世界的に報告されているはずです。

従って、ワクチンの影響があるとすれば、接種後、複雑な要因が関与して、複数のプロセスを経て死に至ることになるわけですから、超過死亡に藤川氏の図にあるようなシャープなピーク構造が現れることはなく、死亡時までの時間分布は大きく広がるはずです。

最後に、前々回前回の記事でも示した、超過死亡数(赤領域)とコロナ死亡者数(左図の緑線)、ワクチン接種数(右図の青線)の図6を示します。今後8、9、10月の超過死亡の推移が発表されれば、その原因についてより明確な結論が得られると思います。

図6 超過死亡数(赤領域)とコロナ死亡者数(左図の緑線)、ワクチン接種数(右図の青線)