超過死亡者数大幅増加の原因は何か?

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(モンテカルロシミュレーションで検証 連載53)

昨年、今年と日本の超過死亡者数はコロナ死亡者数を大幅に上回り、また、図1に示されているように、超過死亡が年間を通して一律に上昇しているのではなく、推移に時間的構造が見られることから、その原因について多くの議論を呼んでいます。この推移の時間的構造は原因究明に重要です。

図1 国立感染症研究所が提供している超過死亡者のデータ

日本では、超過死亡者数はコロナが始まった2020年には減少し、これはこれで興味深い現象ですが、2021年には6万1千人と増加し、2022年は6月までで5万人と昨年を大きく上回る勢いです。

一方、コロナ死亡者数は、2021年で1万5千人、2022年は6月までで1万2千人で、超過死亡者数の1/4にすぎません。残りの超過死亡者はどこから来るのでしょうか。

1.ワクチン原因説

超過死亡の推移に時間的構造があることから、現在多く議論されているのが、ワクチン原因説です。図2は、図1の超過死亡者数(橙色領域)とワクチン接種回数をプロットしたものです。ワクチン接種回数の絶対値は、2022年3月のオミクロン第6波のピークが合うようにスケールしています。

図2 超過死亡数とワクチン接種回数の比較

このような図は、ワクチン原因説の根拠としてよく用いられ、ワクチンの開始時期と超過死亡のピークが同期しているということが根拠です。ただ、2021年の5月の第4波のピークは、超過死亡の方が少しワクチン接種に先行しています。

より重要な問題点は、時期だけではなく量の問題です。第6波の時期はほぼ合っていますが、1、2回目のワクチン接種、3回、4回のそれぞれの接種数のピークの大きさが各超過死亡のピークの大きさに対応していません。

この点は、第7波の超過死亡の結果が出ればより明確になると思いますが、ワクチン原因説の検証には量の問題が重要な要素になります。何故なら、ワクチン接種が長期にわたり超過死亡を一様に持ち上げるというのではなく、短期間の時間構造に影響を及ぼしているとするならば、例えば、地域による接種率の違いが超過死亡の推移に表れるはずです。今のところデータにそのような相関は見られません。

2.コロナ感染間接説

次は、コロナ感染者拡大による医療の逼迫等が間接的に超過死亡をもたらしているという説です。このような説の原因要素はコロナ感染者数の推移です。従って、コロナ感染者数と超過死亡の相関を見る必要があります。まず、この3年間の陽性者数と死亡者数の推移を振り返ります。

図3 コロナ陽性者と死亡者の推移

橙破線は、陽性者数に致死率1.5%をかけ14日後方へシフトした線です。第1波を除き2,3,4波の死亡者をほぼ再現します。ところが、この橙破線と実際の死亡者数をデルタ株(5波)から6波、7波のオミクロン株で比較すると、致死率が1桁近く下がっていることが分ります。実際、第7波では、致死率0.12%の線(紅破線)で再現されます。

図4に、超過死亡者と陽性者数に0.8%の致死率をかけ14日後方へシフトしたものをプロットしました。陽性者数として、計算値とデータを用いています。0.8%というのは、第6波の超過死亡者のピーク値を再現するよう決めた値です。

図4 超過死亡数とスケールされた陽性者との比較

この相関を見ると、5波のデルタ株のひとつ前の4波が再現できていません、また、6波のピークの後方が過大評価です。この6波のピーク後方の振舞いは、ワクチン説でも同じ問題があります。今後の検証としては、ワクチン説と同様に、第7波の超過死亡の結果が出れば、状況はより明確になると思います。

3.コロナ死原因説

ワクチン原因説の図3とコロナ感染間接説の図4の比較を見ると、どちらも超過死亡者の推移の時間構造ときれいに相関しているとは言いかねます。前者はワクチン接種数、後者は陽性者数との相関です。そこで超過死亡者数の1/4の成分に過ぎないのですが、観測されているコロナ死亡者の推移との相関を見てみました。

図5は、コロナ死亡者数のデータと計算値を4倍して超過死亡者数のグラフにプロットしたものです。相関はほぼ完璧です。即ち、超過死亡者は、報告されているコロナ死亡者と、現在コロナ死とはカウントされていないが、コロナ死と同型の時間構造を持つ死亡者の合計が、超過死亡者を形成しているということです。この仮説の検証は、前2例と同様、第7波の超過死亡のデータが出れば、より明確になります。

図5 超過死亡数とスケールされたコロナ死亡者との比較

問題点は、何故、現状のコロナ死亡者の3倍の死亡者がコロナ死亡者とカウントされていないか、ということです。カウントされていれば、単にコロナ感染拡大で死亡者が増加し超過死亡者が増えた、という当たり前の話です。

この現状の4倍のコロナ死亡者がどの程度のものか、図6に重ねて示しました(水色線)。日本では、そもそも致死率が非常に小さい状態なので、4倍でも致死率に換算すると1.2%より小さく、十分あり得る範囲だと思います。

コロナに感染したが無症状で、しかし、既往症に作用して死に至った、PCR陽性になったがその後回復し陰性になり、やはり既往症、もしくは高齢に作用して死に至った等、カウントされない隠れたコロナ死があるのではないでしょうか。この点は今後検証されるべき点です。

図6 コロナ陽性者(赤)、死亡者(青)と死亡者の4倍の線(水色)

4.結論

超過死亡者の推移の時間構造から、超過死亡者は、コロナ死亡者と同等の機序で亡くなった人、つまり、超過死亡者はコロナ死亡者であると言えます。