外務省が在留邦人を見捨てる時:バッシングに加担する外務省

少々の事では驚かなくなったが、このニュースを聞いた時、「そんな事を言っていいのか」とビックリするとともに、もし本当ならば大変なことだ、と考えざるを得なかった。

中学3年生の国語の授業風景(世界平和女性連合発行「国際奉仕プロジェクト海外ボランティア活動隔年報告書」2015年~16年」から)

モザンビークで現地の子供たちの教育育成のために20年以上献身的に歩んできた日本人女性、宝山晶子さんに授与した外務省表彰を取り消すと外務省が決定し、現地の日本大使館が外務省の公文を持参して宝山さんに伝達、「表彰状の取り消しと、表彰の際に授与した副賞の風呂敷の返還を直々に要求した」というのだ。

当方は日本の外交官を評価してきたが、「外務省がいつから日本共産党支持になったのか」と考えざるを得なくなった。宝山さんの外務省表彰の撤回が伝わると、日本共産党機関紙「赤旗」は1面で「わが党の要求が受け入れられた」と狂気したという。

共産党が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)とその関連団体を憎悪し、事あるごとに批判してきたことは周知の事実だ。宝山さんの外務省表彰に最初にイチャモンを付けたのは共産党議員だった。メディアの旧統一教会バッシングを受け、共産党は宝山さんの外務省表彰にも批判の矛先を伸ばしてきたわけだ。

共産党の旧統一教会嫌いは今に始まったことではないから、さもあらんと思うだけで、驚くには値しない。問題は、日本外務省がその共産党の主張を受け入れ、表彰の破棄を決めたことだ。かつて大使館からは支援の申し出もあったという。宝山さんはその時、外務省の支援申し出を断っている。いずれにしても、外務省は宝山さんのモザンビークでの献身的な活動を高く評価していたことは間違いない。それが国内の旧統一教会バッシングに押され、宝山さんが旧統一教会関連団体の世界平和女性連合から派遣されたということから、「外務省表彰を撤回すべきだ」という圧力を受け、外務省は今回、撤回を決めたわけだ。

外務省は表彰撤回の理由として、「反社会的な活動で知られている団体から派遣された人物」、「学校ではその団体の教えを広めていた」等々を挙げている。旧統一教会は反社会的グループではない。日本では反社会的グループは暴力団体を指す。旧統一教会とその関連団体は反社会的という枠中に入らない。

「団体の教えを学校で広めていた」という批判にしても、世界的に奉仕活動をしているカトリック教系カリタスなどはキリスト教の教えを実践しながら、イエスの教えを伝えている。何も特別なことではない。奉仕活動には宗教的な精神がその支えとなっていることが多い。カトリック教会や旧統一教会だけではない。外務省関係者の宗教に対する認識不足が問題だ。奉仕活動に宗教的要素を完全に排除することは出来ないし、排除する必要性などない。

ここまでは、先述した「驚いた」ことではない。問題は、表彰撤回を伝達した外務省公文を持参した在モザンビークの日本大使はベイラにあるカフェで宝山さんと会い、「今後、大使館と連絡することも控えてほしい」と言ったという。この発言こそ驚きに値する、というより、事実とすればスキャンダルだ。

海外に赴任する日本外交官は現地での日本の国益を守る一方、現地の在留邦人の安全保護がその職務だ。その外交官が「もう大使館と連絡することを控えるように」と言ったとすれば、在留邦人の安全問題への外交官の職務放棄を意味する。クーデターや革命が起きたとしても、外務省はもはや在留日本人の安全について保障しないということにもなるわけだ。

もう少し、大使の言動を厳密にいえば、反社会的グループに所属する在留日本人は外務省の安全保障の対象とはならない、という意味にも受け取れる。旧統一教会の場合、反社会的グループではない。共産党や左派メディアがそう主張しているだけだ。にもかかわらず、外務省が旧統一教会とそれに関連する団体に所属する在留邦人に対してはもはや通常の在留邦人のようには扱わない、と解釈できるわけだ。

明かに国連の人権憲章に違反している。外務省関係者ならばそのようなことはご存じだろう。ただ、左派メディアに押されて、そのバッシングに加担しているわけだ。魔女狩りに外務省が乗っているのだ。

ウィーン市7区にあるミュージアム・クオーター(MQ)で2019年9月26日から「オーストリア・日本国交樹立150周年」を記念したイベントの一環として、日本の現代芸術展「Japan Unlimited」(ジャパン・アンリミテッド)が開催されたことがあった。同芸術展に展示された作品は日本を明らかに中傷、誹謗する内容だった。同イベントを支援してきた駐オーストリアの日本大使館は急遽共催を中止せざるを得なくなった。在ウィーンの日本大使館は事前に反日芸術展であることを調査していなかったのだ。

一方、在ウィーン日本大使館の公使はウィーン市内のレストランで接待が終わると、日本酒のボトルをわざわざ注文して家に持ち帰るなど公費の乱用が明かになったり、在ザグレブの日本大使はセクハラが発覚したりして帰国を命じられるなど、海外駐在中の日本外交官の不祥事がこれまでも絶えなかった。

モザンビークの日本大使館の言動は、外交官として職務放棄を意味するだけに、深刻な問題を含んでいる。世界で活動する旧統一教会関連団体の日本人は自身の安全問題でもはや日本大使館から如何なる支援も保護も期待できなくなる、というわけだ。繰り返すが、日本外務省は人権蹂躙を犯しているのだ。自己の地位の保全を重視し、担当地に住む邦人の安全を軽視することになるからだ。日本では旧統一教会へのバッシングは左派系メディアだけではなく、外務省まで広がってきている。

外務省 y-studio/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。