デジタルアセット分野における規制を強化・明確化する動きが加速している。米バイデン政権は政府機関に対しデジタルアセットの管理を強化し、規制の不十分な点を明らかにするよう求めた。シンガポールの中央銀行である金融管理局も個人投資家の暗号資産取引を制限する方向で検討を開始した。
こうした動きは暗号資産に係る機関投資家の破綻が相次いでいることが背景にある。例えばピーク時には2兆円以上の運用資産残高を誇ったとされる暗号資産ヘッジファンドのスリーアローズ・キャピタル社は、5月以降の暗号資産市場の急落の影響を受け破産申請を行った。そのあおりを受け同社に融資していたデジタル資産仲介会社のボイジャー・デジタル社も破綻するなど、連鎖的に関連各社が大きな損失に見舞われている。
この「テラショック」からさらに半年後、つい先日11月11日に暗号資産交換業大手のFTXトレーディング社は日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を申請した。負債額は推定で最大で7兆円にのぼり、暗号資産業界では過去最大の経営破綻となる。その2日前にはFTX社の買収で合意していたバイナンス社がその方針を撤回したことが最後通告となったようだ。そのバイナンス社のチャンポン・ジャオCEOはFTX社の破綻に関し「多くの連鎖的な影響を見ることになるだろう」と連鎖破綻への警戒を示しており、今後「暗号資産業界のリーマンショック」と呼ばれる日が来るかもしれない。さらに中身をよく見て見ると2001年のエンロン事件を彷彿させるような巨額不正会計問題も出てきている。サマーズ元米財務長官はFTXを金融詐欺だと指摘し「リーマンショックに例える人が多いようだが、どちらかといえばエンロン事件に近いだろう」とも話している。いずれにせよ当局はこれを機に、より一層の規制強化・明確化に動き出すことは間違いない。
なお本件に関し、SBIグループの暗号資産事業においては顧客の預かり資産等には影響ございませんのでご安心ください。
有価証券性の問題も忘れてはならない。リップル(XRP)が10月に急騰したのは、2年以上続く「XRPは証券か否か」を巡る裁判において早期解決が見えてきたことが1つの要因である。他にも、9月にはイーサリアムがコンセンサスアルゴリズムをコインの保有量が重要になるPoS(Proof of Stake)へと移行したが、SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は「融資と非常によく似ており、PoSプロトコルを基盤とする暗号資産はすべて証券である可能性が高い」との考えを示し、イーサリアムが暴落した。証券と見なされればイーサリアムベースのNFTやDeFiへの影響も大きく、XRP以上のインパクトをもたらすだろう。
なお、日本においては暗号資産取引所への上場はすなわち当局の審査を通過しているということであり、コインとして認められたということになる。金融庁は2023年度の税制改正要望で、企業保有の暗号資産に対する課税方法の見直しを提案しており、企業にとってはありがたい動きだ。さらに「新しい資本主義」では暗号資産やブロックチェーン技術を活用するWeb3推進を目指すことが明記されるなど、日本は当分野で世界に先行できる可能性を秘めているとも言える。
これら規制の明確化はデジタルアセット分野の急拡大の証左ともいえよう。事実、世界中で次々と新しい動きが出てきている。世界各国で株式・デリバティブ市場を運営するCboe社は、暗号資産の現物・先物取引所を運営するErisX社の買収を5月に完了し、デジタルアセット分野に参入を果たした。9月には米金融企業らによりデジタルアセット取引所が設立されている。米セキュリタイズ社のようなSTやNFTといったデジタル証券の管理に特化した会社の設立も相次いでいる。また米投資銀行ゴールドマン・サックス社は暗号資産への投資需要の高まりを受け、急成長を遂げる富裕層向け事業を資産運用部門に統合することでデジタルアセット時代に即した事業モデルへの転換を図っている。
このように世界各国で規制が明確化されていけば、デジタルアセット分野に構造変化がもたらされ、さらなる進化・発展を遂げていくことは間違いない。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。