田原総一朗です。
僕たちは、資本主義社会に生きている。つまり、お金中心で動いているということになる。物を買うのにも、旅行するのにもお金が要る。
より多くのお金を得られるよう、良い企業で働こうとする。そのために良い大学へ行こうとする。ますますお金中心の世の中となり、いつしかそれが「常識」になっている。
しかし、その常識に、異議を唱えている話題の本がある。その本『お金のむこうに人がいる』(ダイアモンド社)の著者、田内学さんと対談した。ゴールドマン・サックス証券でトレーダーをしていた方だ。
田内さんはこう語る。
「経済に関することは、お金で解決できる」と、世間一般には思われています。けれど現実には、お金を融通することである部分は解決できても、絶対に解決できないことがあります。
もちろん田内さんは、お金が不要だと言っているわけではない。例えば、将来少子高齢化が進み、高齢者だらけの社会になれば、働き手がいなくなる。どんなにお金があっても、働き手がいなければ社会も経済も立ち行かなくなる。
だから田内さんはこう主張する。
問題の根本は、「お金をどうするか」ではありません。働く人の割合が減っていることこそが問題であり、どんなにお金を増やしたところで、お金自体が働いてくれるわけではないんです。
そして、
モノやサービスを提供するために働く人がいること、将来、その働く人を増やすために社会全体で子育てをすべきであること、これらの視点が抜け落ちている。
と憂慮する。
僕も、政府はずいぶん前から、「少子化対策」を謳っているが、切実さが足りないように思う。少子化対策を担当する歴代の内閣府特命担当大臣を確認してみると、創設2007年から15年間で、22人が就いている。1人あたり平均1年も在任していない。明らかに軽んじているのだ。
不妊への補助などももちろん必要だが、何より親が、経済的にも、子育てをする上で不安がなく、産めるようにすることが不可欠だろう。つまり田内さんの言うように、「社会全体で子育て」をするようでなければ、少子化は止められないと思う。
また、日本の教育への公的支出は、OECD37か国中、なんと36位だ(2019年時点)。資源のない国日本にとって、人材を育てることは、何より大切なはずなのに、である。
知り合いの学者たちから、「世界に通用する論文を書ける学者の数が、日本は先進国で、最低レベルだ」という嘆きをよく聞く。日本の人材が枯渇しているのだ。
教育への投資などの社会保障は、国にとって厄介な荷物のように思われがちです。子どもが生まれ育っても、そのこと自体は、直接は国の収益として表れません。しかし、必ずそれは国の富、将来の国力につながるものです。そこに対して「財源がない」とか「子育て支援に充てるお金がない」という話は、本末転倒なのです。
この田内さんの言葉を、僕は政治家たちにぶつけたい。
※田内さんとの詳しい対談内容はこちらから
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2022年11月25日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。