海外未経験者の嘆き --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

私の高校の同級生からのメール。そこにはクラスメートの「国際化」で、国内経験しかない彼にとって「出遅れ」を感じている、と。たしかについ10年ぐらい前までは海外に出ているクラスメートは数名だったと記憶しています。いまやそれがドンと増えたとすれば「国内派」としては気が気ではないでしょう。


私が会社勤めしていてまだ国内勤務だった頃、海外勤務者は全社員の1割弱ぐらいいたと思います。経験者を含めれば1割を超えていたでしょう。80年代後半の上場建設会社における比率としては異常値だったと思います。特にポルトガル語やスペイン語、中国語など非英語圏言語をローカル並みに操れる人が多数在籍し、本社のいくつかの部門では英語が社内で普通に聞こえてきた記憶があります。

海外への憧れの一方でそれら言語アドバンテージをもった人と席を並べ仕事をするのはある意味精神的劣等感すら覚えた事すらあります。実際に赴任すれば出張ベースで味わった「お客さん扱い」から一人立ちさせられ苦労の連続の日々は昨日のことのように思えます。

この数年のニュースで日本企業の海外進出の記事が出ない日はありません。そしてそれは加速度的に進んでいるようです。そこには90年代、パソコン、Eメールが登場し、年配の社員が若い社員から見よう見まねでキーボードの使い方を習っていたあのときとかぶるものを感じなくもありません。

これも全てグローバル化という時代の変化の中で自分が変化せざるを得ない社会にいるということなのかもしれません。日本は中国のように国家によるコントロールは強くありません。北朝鮮のように外部との接触をシャットアウトしている国でもありません。グローバル化に対する批判や非難の声が多いことも事実ですが、日本は自由を最大の幸福の糧として今日の地位を築いてきたのです。とすれば急速に変化する社会、経済とその対応に追われる企業が求めるものはフレキシビリティ以外のなにものでもないと思っています。当然ながらそこで働く社員、従業員もそのフレキシビリティを保つことを求められるでしょう。

最近、海外への移転や資産のディバーシフィケーション(分散化)が増えているそうです。その理由に年金問題や政治不信だけでなく、震災、津波とった自然災害の可能性の声があちらから聞こえてくる中でいざというときの対策をとっているようにも見えます。これは1997年の香港返還前と同じ動きです。当時香港では中国返還後の資産没収など最悪の時代を想定し、大移民ブームと大資産移動ブームが起きました。

中国人は新たに海外に根付き、人生のオプションを展開していきました。香港人が恐れた資産没収とは中国政府が没収と宣言すればそれで全てがなくなるという最悪のシナリオが思想背景にありました。これは日本がある日突然自然災害に襲われ全てをなくすことと同一の瞬間性だと思います。

こう考えるとまず親は自分よりも子を思い、海外経験をさせたくなるのではないでしょうか? 私は日本で第二の海外ブームが起きる気がしております。そしてそれは旅行ではなく、足がかりを作るための長期滞在に近いものになると思います。

外から見ておりますと日本はそれぐらい不安感を背負って生きているように感じてしまいます。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年3月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。