セブン&アイの経営陣は何を苦しんでいるのか?:お荷物の2つの事業

セブン&アイホールディングスによるアメリカのコンビニチェーン、スピードウェイ社の買収では二転三転しました。2020年3月に同社がスピードウェイ社の買収を諦めたと発表した時、同社の株価が急騰しました。理由は「やめてよかった、セブンイレブン」という日本の大合唱でありました。

私はその時のブログに「個人的にはセブンのスピードウェイ買収は進めるべきだったと思っています。そこを抜ければかなりシェアで優位に立つほか、セブン流のコンビニビジネスを全米展開できたはず」と述べています。その後、スピードウェイ売却に伴う再入札があり、2020年8月に同社が勝ち取りました。買収金額は当時のレートで2兆3千億円。当然、国内では「高い、高い、ババをつまされた!」の再度の大合唱。たしか、日経ですら高いお金を払って買収にこぎつけたぐらいの論調だったと思います。

私は「よくやりました」と◎をつけました。その感覚の違いはかつて武田薬品工業がシャイアーを7兆円で買収した時も「これで武田は終わりだな」といった超否定的なコメントがずらり並んだのです。私はその時も「大金星!」ぐらいのコメントをさせて頂いたと思います。日本は金銭感覚が渋すぎるのです。もちろん、今の北米の狂った金銭感覚が正しいとは微塵たりとも思いませんが、日本は本当におっかなびっくりで大魚をつかめなくなった気がします。

セブンがスピードウェイの買収完了が21年7月ですので、ようやく連結決算でその全容が見えてきました。昨日発表された23年2月期の連結決算は売上高11.8兆円と日本の小売業で初めて10兆円の売り上げを超えた快挙となりました。中身を見れば一目なのですが、スピードウェイサマサマであります。あれがなければ売上高は今の半分、つまり6兆円程度で留まっていたはずです。

なぜ、私がスピードウェイは買収すべき、と強く推奨したかと言えば成長余地があまりにも大きかった、逆に言えば北米には日本的なコンビニは存在しないので注入できるアイディアは無数にある、故に飽和化した日本で勝負せずに北米大陸で戦うべきだと考えたのです。そうすれば私はこれから5年で今の2倍の売り上げと3倍の利益を確保できる潜在性はあると考えています。

Robert Way/iStock

ある意味、世界に進出した小売業としてはユニクロが先鞭をつけていますが、規模を含め、圧倒的ポテンシャルがあるのはセブンなのです。これは断言できます。

では経営陣は何を苦しんでいるのか、と言えばシンプルにお荷物の2つの事業であります。

1つは百貨店事業。もう1つはスーパーマーケット事業(イトーヨーカドー)であります。百貨店についてはフォートレスに売却する予定ですが、現状、難題を抱えすぎており、ひょっとすると流れるのではないか、という気もしています。全ての間違いはフォートレスと組むヨドバシカメラに原因があります。彼らの「がめつさ」が周囲との温度差をより鮮明にし、ディールを難しくしてしまいました。

また売却差し止め仮処分をした百貨店の従業員の主張が東京地裁で却下されたの受け、労働組合が即時抗告を行うなど場外戦も泥沼化しつつあります。また池袋東口の商店街や豊島区も反対姿勢です。私も不動産事業を営む者として反対です。

もう一つは中途半端なイトーヨーカドーというスーパーマーケット事業です。リストラプランも中途半端です。

なぜこうなのか、と言えば経営陣がコンビニ事業の好調ぶりで踊っているからでしょう。当然、アメリカの物言う株主、バリューアクトキャピタル社は黙っていません。今年の株主総会に向け、井坂社長以下役員の入れ替え要求を出しています。

お前ならどうするのか、と言われれば分社化します。つまり、絶好調なコンビニ事業と百貨店及びスーパーマーケット事業の2社に分社です。理由はセブン&アイの経営幹部はコンビニ事業の人ばかりなのです。誰も百貨店もスーパーマーケットもやったこともないのです。なぜなら不振事業の責任者が役員にはなれないからです。つまり、もっと戦略は立てられるのにコンビニ事業で成功体験をしてしまい、更にスピードウェイの買収でその名の通り、加速してしまった、だから百貨店もスーパーマーケットも興味もないし、人材も経営資源も投じないのです。

だったら経営を止めればよいのです。そうは言っても明日から店を閉めるわけにはいきません。いやむしろ、価値の創造はできるはずなのです。だから別部隊が経営することで、セブンの経営陣から「上から目線」で「儲からねーな、お前らは」と言われない環境を作ったほうが良いのです。

セブン傘下の百貨店とスーパーマーケット事業に従事している人は悲劇なのです。明白なる社内格差が生まれてしまっています。これを放置した経営陣の責任問題は当然あるでしょう。井坂さんは退任するのではないでしょうか?今なら会長になるには絶好のタイミングです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月7日の記事より転載させていただきました。