こんにちは、医師・医療経済ジャーナリストの森田です。
「そろそろアフターコロナ!」という雰囲気が醸成されつつあるご時世ですが…。
そんな今、表題のとおり、
「マスクは無効→有効!」なぜ感染症専門家は全員一夜にして論を変えたのか?
という問題について考えてみたいと思います。
1. 事実確認
まず事実確認として、日本の専門家の言説を振り返ってみましょう。
■ 日本の専門家の言説
医療従事者・医療関係者の間では周知の事実だったのですが、実はコロナ前まで(2020年初頭=コロナ初期まで)、感染症専門家はほぼ全員ずっと、
「マスクは感染予防には意味がない」
と言っていました。
著名な専門家の方々で言えばこちらの方々。
忽那 賢志 医師(大阪大学医学部 感染制御学 教授)/ 2020年2月
岩田 健太郎 医師(神戸大学病院感染症教授)/ 2020年2月
宮坂 昌之 医師(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授)/ 2019年12月
テレビや新聞では、冬になると「人混みに出るときにはマスクを」と決まり文句のように繰り返し、実際に多くの人々が日本ではウイルスをもらうのを防ぐためにマスクを着用していますが、私から見ると、その意義はかなり疑問です。
(出典:講談社・現代ブルーバックス「マスクをつけてもインフルエンザ感染を防げない理由」)
マスクをつけてもインフルエンザ感染を防げない理由(宮坂 昌之)インフルエンザや、上気道炎、いわゆる風邪を防ぐ防御の三種の神器は、「マスク」「手洗い」「うがい」。普段からきっちり守っている人も多いことでしょう。でも、これがあんまり効用がないんだなぁ、と言われたら、ちょっとショックじゃありませんか? 感染症を防ぐということはどういうことなのか。免疫の第一人者に聞いてみました。
もちろん、皆さんのご存知のとおり、今こうした専門家の方々は全員が一人の例外もなく、
「マスク推奨」
に転じています。
そのタイミングは、若干のズレはあるものの新型コロナが日本に上陸した2020年の春以降で一致していますので、まさに
「全員が一夜にして論を変えた」
と言っていいでしょう。
■ 世界のマスク議論
一方、世界の議論は多様です。
医療業界ではエビデンス(科学的証拠)が非常に重視されますが、そのエビデンスの総本山的存在として専門家からも高く評価されている「コクラン」という国際組織。
そのコクランはコロナ前から一貫して、
「マスクを着けても着けなくても差はない」
と言っていました(日本の専門家もコクラン論文を見て「マスクは意味ない」と言っていたのでしょう)。
そして今年2023年1月、コクランはコロナ後の研究も取り入れ満を持して最新の「マスク効果」を再評価しましたが、その結果もやはり、
「マスクを着けても着けなくても差はない」
だったのです。
このコクラン論文は医学界を大きく揺るがしました。
あまりに影響が大きかったので、その後コクランの編集長が「謝罪声明」を出したり、その声明に論文の著者が反発して大喧嘩に発展したり…。
まぁ、簡単に言うと、エビデンスの総本山の国際組織「コクラン」さえも大揉めに揉めている訳です。(詳細は以下)
「マスク論争に終止符? エビデンスの総本山が内部で大揉め…」
また、みなさん御存知の通り、コクランのマスク効果論文よりずっと前から世界は「脱マスク」の傾向にありました。
WBCでも、日本で行われた試合ではほとんどの人がマスクをしていましたが、アメリカで行われた決勝戦の観客はほとんど誰もマスクをしていませんでした。
アメリカで最も有名な病院の一つである「メイヨークリニック」もそう。
いまはもう「スタッフも患者さんもマスクは不要」とアナウンスしています。
もちろん、WHOは今もマスクを推奨していますし、生活の場面によってマスクを推奨している国もあります。
つまり、
世界全体ではマスクについて多様な意見があり、医療機関や市民もそれぞれの対応をしている。
ということです。
専門家が全員「マスク推奨」で一致している日本の状況とは対照的ですね。
2. 考察
ここから先は、以上の事実確認を踏まえた上での、解釈と考察を述べたいと思います。
■ 医学のエビデンスは曖昧なもの
上記のように、コクランさんでさえマスクの効果あり・なしで揉めているわけです。
ここは多くのみなさんが誤解していると思いますが、実は医学の世界では科学的根拠(エビデンス)が曖昧のものがほとんどなのです。
これはマスクに限った話ではありません。例えば…
- 認知症の薬は効くのか?(日本では効果ありとして普通に使用されていますが、フランスでは「ほぼ効果なし」として保険適用がなくなりました)
- 乳がん検診(マンモグラフィー)は必要?(日本では推奨されていますが、「みんながマンモグラフィーで検診しても乳がんによる死亡は減らなかった」という研究結果が複数あり、世界に「マンモグラフィー全廃」をまじめに訴えている専門家もいます。)
- コロナワクチンは安全なのか?(WHOは依然として「安全」といいながらも、この3月に子どもや若者への接種推奨を取りやめました)
医学というと、理系で科学のイメージが強いので、
「きちんとした正解があって、ほとんどはきっぱり白・黒ついている。」
と思われるかもしれませんが、実は多くの問題が今でも曖昧で多様な議論がなされているのです。
専門家からも高く評価されている「コクラン」ですら揉めているのですから、マスクの効果もまだまだ白黒はっきりしていない、と考えるのが妥当でしょう。
■ 三島由紀夫の思考
ではなぜ、日本の専門家だけは全員一致で今も「マスクを推奨」しているのでしょうか?
さらに言えば、なぜ「全員が一夜にして論を変えた」のでしょうか?
社会学者で東京都立大学教授の宮台真司氏は言います。
日本人は敗戦後、一夜にして民主主義者に変わった。近年では一夜にしてLGBT(性的少数者)主義者に、ダイバーシティ(多様性)主義者になった。日本人は周りを見回して自分のポジションを保ちたがる、空っぽで入れ替え可能な存在だと三島は見抜いていた。
三島由紀夫は、「天皇主義から一夜にして民主主義へ変わった日本人の『空虚』さ」を憂いていたということです。
日本人は今でもそうなのかもしれません。
一夜にしてLGBT主義者・ダイバーシティ主義者・SDGs主義者・フェミニズム主義者へと、流行を追うようにその主張を変えています。
おそらくその主張の根本に科学的・道義的な「正当性」があるのではなく、
- どれだけ周囲の人間と同調出来るか?
- その主張を唱えることで企業や団体など自分が属する集団の中でどんなポジションが得られるのか?失うのか?
という個人の都合があるだけ。だからこそ、右へ左へと一夜にして論を変えることが出来るのでしょう。
そう考えると、なぜ日本の専門家が全員一致で今も「マスクを推奨」しているのか? なぜ「全員が一夜にして論を変えた」のか? の謎が見えてくるように思えます。
まあ、おそらく各個人に聞けばそれなりの論文とかを持ってきて「だからマスクは有効なんだ」などと主張するのでしょうが、問題はそこではなく専門家が集団として画一的に「マスク有効」と主張していることなのです。
そう、彼らは「マスクが有効」という科学的な「正当性」を盾にしているようで、実は
「専門家集団の中で決して仲間はずれにならないように、右や左をキョロキョロ見ながら、自分のポジションを気にしている」
だけなのです。
そうでなければ、全員が同時に一斉に論を変えたり、世界には多様な意見がある中で画一的に全員が論を固持していることの説明が付きません。
一方、当初から一貫して「マスクは効果なしのままで良いんじゃない?」という立場を変化させなかった医師も少数ながらおられました。彼らの多くが医師会や大学医局から距離を置いた一匹狼的存在の医師だったのは、そんな「忖度の必要のない立場」が影響していたのかもしれません。
もちろん僕もその一人ですが…、実はそんな僕のところには、最近多くの医師から
大きな声では言えないけど森田先生の主張はよく分かる。
と言う謎の告白が集まってきています。
科学的・医学的に正しいと思うなら大きな声で言えばいいのに…。
医師もまさに
「周りをキョロキョロ見回して自分のポジションを保ちたがる」
日本人の枠の中から出られない、非科学的な存在なのでしょうね。
そんな「専門家集団の中の立ち位置を優先して自分の意見を言えない専門家たち」に日本人の生活を隅々まで支配されてしまった3年間(これからもずっと?)と思うと、なんだかやるせない気分です…。