世界中から富裕層が集まるモナコ公国。ラグジュアリーホテルが立ち並ぶ中、一際輝きを放っているのは「オテル・ド・パリ」。このホテルのメインダイニングは、最高級の美食レストランとして世界中に名声を誇る「ル・ルイ・カンズ アラン・デュカス」だ。
この名門レストランが一躍注目を浴びたのは、ミシュランガイドで3つ星を獲得した1990年。遡ること3年前、当時のモナコ公レーニエ三世は、このレストランを最高の美食空間にしたいと、コート・ダジュール地方の別のホテルレストランで注目を浴び始めていたアラン・デュカスを招聘。デュカスが大公に提出した計画書には、”地元の食材の魅力を多用した地中海料理で、4年で3つ星を獲得する”とあった。
今でこそ地元に根ざした食文化は一般的だが、当時としてはアヴァンギャルド。デュカスはこの新しいヴィジョンを持って邁進し、計画を上回るスピードで3年後、33歳の若さでミシュラン3つ星を獲得。史上初、ラグジュアリーホテルのダイニングに輝いた3つ星だった。アラン・デュカスとモナコ公国が作り上げた「ル・ルイ・カンズ アラン・デュカス」の名声は一気に高まり、世界中から美食家たちが押し寄せた。
デュカスのパリ進出が始まった1997年、同じシェフが複数のレストランで3つ星を取るのはどうか?と、2つ星になったが、翌年すぐに3つ星を取り戻し、ミシュランが抱いた疑問を一蹴。以後、現在に至るまで、世界最高峰の美食レストランとしてその魅力を強く放ち続けている。
デュカスの哲学は、伝統と革新。この店が築いてきた伝統を大切にしつつ、革新を続けている。「ル・ルイ・カンズ アラン・デュカス」の厨房で指揮をとるエマニュエル・ピロンは、2021年にシェフに着任。以前は、パリのデュカス旗艦店「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」のセカンドシェフとして活躍し、10年ほど前からデュカスが取り組む”ナチュラリテ(自然性)”という哲学を共に研究してきた料理人だ。
最上の食材なしには最上の料理は作れない、という観点から、地元の生産者と深い信頼関係を築いている。野菜を中心に、持続可能な魚介や上質な肉を仕入れ、脂質や塩、砂糖などをなるべく排除し、加熱や発酵などの料理技術を駆使し、食材自体の魅力を存分に引き出した料理を提供。食材廃棄ゼロにもコミットしていて、一皿一皿に、貴重な食材とそれを生み出す自然へのオマージュが強く宿っている。
食材の本質的な風味を巧みに引き出した、一見シンプルな、しかし口に入れるとどこまでも広がっていくおいしさの圧倒的な存在感。唯一無二の感動が、ここにある。
皿の中だけでなく、内装やテーブルアート、ワインの取り揃えや料理とのマリアージュ、そしてもてなしに至るまで、最高のレベルを楽しめる「ル・ルイ・カンズ アラン・デュカス」。
歌手とオーケストラと指揮者はもちろん、演出や舞台セット、衣装まで高いレベルで揃った極上オペラを鑑賞する時と同じような感動を、このレストランは与えてくれる。
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