サラリーマンの最重要クライアントは「お客様」ではなく「上司」

マネックス時代によく一緒にお仕事をさせていただいたセゾン投信の代表取締役会長CEOである中野晴啓さんが、親会社のクレディセゾンとの路線対立で事実上解任されたというニュースがはいってきました。

退任の真相は分かりませんが、セゾン投信は中野さんの金融機関らしからぬ顧客目線の営業スタイルで個人投資家から支持を受けていました。それに共感していただけに、とても残念です。

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今回の件で改めて実感したのは、サラリーマンの最重要クライアントは、お客様ではなく上司という現実です。

クレディセゾンの社員でもある中野さんにとっての最重要顧客は、残念ながらセゾン投信を買ってくれる個人投資家ではありません。上司である親会社クレディセゾンの経営陣です。

自分でビジネスを展開している経営者や自営業者と組織に所属するサラリーマンとの最大の違いは、誰の顔を見ながら仕事をするかです。

自分で仕事をしている人は、お客様にとって価値のある商品・サービスを提供することができなければ、ビジネスとして成り立ちません。

一方、サラリーマンは顧客から評価されても、上司に評価されなければ、仕事を続けることができません。最終的な人事評価をするのは上司だからです。

もちろん、顧客の支持がなければ、成果を出すことができず、上司の評価も得られないかもしれません。しかし、経営方針に関し意見対立した場合、最終判断を決めるのは上司です。だから、自分の意見にこだわるのではなく、上司の意向に従いながらビジネスを進める。そんな「サラリーマン道」を極めることが必須です。

自分がお客様にとって最良と思われる事を上司の意向より優先してしまう。これではクライアントである上司からの評価は得られません。

もし、自分が本当にやりたいことを貫き通したいなら、経営者になるしかありません。

今回の件は、中野さんにとっては納得できない親会社の仕打ちでしょうが、見方を変えれば本当に自分がやりたいことを始められるチャンスでもあります。

中野さんは、日本人のお金との付き合い方を変えることに貢献した資産運用業界のパイオニアです。投資に対する考え方には異なる点もありますが、日本の個人投資家に対する想いは同じです。今なおリスペクトしている存在です。

もし中野さんが、今後リスクを取って自分が本当にやりたいビジネスを立ち上げるなら、最大限の応援をするつもりです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。