ドイツでショルツ連立政権の支持率が低下する一方、野党第2党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進し、与党第1党「社会民主党」(SPD)を抜く勢いを見せている。一方、隣国オーストリアでは極右政党「自由党」(FPO)は、複数の世論調査結果によると、ネハンマー連立政権の与党第1党、中道保守「国民党」を抜いて既に第1党だ。もし今週議会選挙が実施されれば、AfDは政権奪回を狙う野党第一党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いで第2党に進出、オーストリアのFPOは第1党になる可能性が高い(「ショルツ独首相の支持率、落ちる」2023年6月8日参考、「世論調査で極右『自由党』支持率トップ」2022年12月3日参考)。
それではAfDとFPOの両党の次期政権入りは有望か、というとそうとは言えない。ドイツでは社会民主党、緑の党、自由民主党(FDP)の3党連立政権が政権を担当しているが、現時点の世論調査では3党合わせても支持率で既に50%を割っている。AfDは今年1月の世論調査では13%だったが、6月に入って支持率は18%と急上昇した。メルケル前首相が16年間政権を維持したCDU/CSUが再び政権に復帰する可能性は濃厚だが、安定政権を維持するためには政権パートナーが必要だが、AfDとの連立は拒否している。ドイツの他の政党もAfDとの連立は排除している。
一方、FPOの場合、連立レベルでは同様で、国民党、社会民主党、緑の党、そしてリベラル派政党ネオスはいずれもFPOとの連立を拒否している。ドイツのAfDと違う点は、FPOは州レベルでは既に与党入りしていることだ。オーバーエスターライヒ州、ニーダーエスターライヒ州、そして今年ザルツブルク州で国民党と連立を組んでいる。
それだけではない。オーストリアで過去2回、FPOは政権入りした。シュッセル党首(当時)が率いた国民党は2000年1月、選挙で第3党だったが、FPOと連立を組むことに成功し、第2党のFPOに代わって首相の座も獲得した。FPOの当時のハイダー党首は自身が首相の座を取れば欧州からの反対が強いと考え、首相の座を国民党に譲ったからだ(「欧州極右指導者ハイダー死後10年」2018年10月12日参考)。
ちなみに、FPOの政権入りは当時、国内ばかりか、欧州全土で激しい抗議デモを誘発させた。アドルフ・ヒトラーの出身国オーストリアで欧州の代表的極右政治家だったハイダー党首が率いるFPOの政権入りは悪夢を想起させる、という懸念だ。
2回目はクルツ政権で、だ。欧州の若手の保守派ホープと見られてきたクルツ首相はFPOのシュトラーヒェ党首(当時)と連立を組むことに成功した。FPOはあくまでも政権のジュニアパートナーだった。ただし、シュトラ―ヒェ党首(当時副首相)のイビザ騒動が発覚し、同党首が辞任に追い込まれ、最終的には政権を失った。
キックル現党首はハイダー党首のスピーチライターだった。議会演説はシャープで扇動することに長けている。スピーチ力ではオーストリア政界ではトップだ。キックル党首はクルツ政権時代には内相を体験したが、次回はFPO主導政権を目指している。
AfDの場合、連邦レベルでは政権担当の経験がない。AfDのティノ・クルパラ共同党首は12日、オーストリア国営放送とのインタビューの中で、「わが党はFPOと連携を強化していきたい。FPOは政権経験があるのでわが党にとって模範だ」と述べていた。
ドイツのメディアではAfD躍進の背景を分析する記事が増えてきている。はっきりしている点は、移民問題がAfDの躍進を後押ししていることだ。2015年に100万人以上の移民が欧州に殺到した時、AfDは外国人排斥、難民拒否を叫んで有権者の心を勝ち取り、連邦議会入りを果たした経緯がある。今回はそれだけではない。ウクライナ戦争の勃発を受け、エネルギー価格の急騰、物価、住居費の高騰で国民の生活は厳しくなっている。ショルツ政権への批判の声は高まってきた。AfDはその抗議票を巧みに吸収しているのだ。
参考までに、AfDもFPOも反移民、外国人排斥傾向が強く、欧州連合(EU)のブリュッセルの路線には懐疑的だ。そのほか、ウクライナ戦争ではロシア寄りだ。
FPOの場合、政権入りのチャンスはかなり高い。ネハンマー首相(国民党党首)はここにきて移民問題で厳しい対策に乗り出してきた。FPOに流れる票を取り返す作戦だ。ただし選挙で過半数を獲得することは難しいから、どうしてもパートナーが必要だ。懸念材料は、FPOとの連立政権が国内外で強い批判を呼び起こすことだ。ただし、FPOは同国で既に2回、国民党との連立政に参加し、州レベルでは現在、3州で両党の連立政権が誕生しているので、ドイツのAfDとは違い、FPOとの連立アレルギーは少なくなっていることは事実だ。いずれにしても、AfDとFPOの両極右政党が次期選挙で政権入りを果たすか否かは、政権パートナー探しにかかっている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。