ITで教育を本気で変える~ビル・ゲイツが考える実践のあり方

新 清士

教育をITで本気で変えようと思ったら何ができるだろう。

4月6日に行われた日本マイクロソフトが主催する「イマジンカップ(Imagine Cup)日本大会」というイベントの見学に行ってきた。主に学生を対象とした「ITを通じて世界を良い方に変える」ということを目標とした技術コンテストで、2003年より開催され、今年で10年目にあたる。

06年から、国連のミレニアム開発目標 (MDGs) の克服を達成することが一つの指針となり、今年のテーマは「テクノロジーによって困難な問題を解決することをたすける世界を想像する」だ。

■優れたプレゼンテーションが続くソフトウェアデザイン部門

イマジンカップでは、08年から「ゲームデザイン部門」が設立されていたものの、日本大会で発表の場が提供されたのが、今年初めてということもあり、ほとんど知られていなかった。それが縁あって、世界大会のゲームデザイン部門の審査員を務めることになったので見学に伺ったのだ。

目玉は、なんといっても、03年より続いている「ソフトウェアデザイン部門」だ。学生たちが課題設定を行い、その解決のために具体性を保たせたソリューション提案する。4チームが10分縛りで発表を行ったが、プレゼン能力も高ければ、内容もおもしろく、かなり感心させられた。

優勝したのは、東京工業高等専門学校の「All Light! ~可視光通信による省電力照明システム~」というものだった。そのまま、紹介文を引用すると「LED 照明を使い、周りの明るさに応じて適切に自動調光するシステムです。照明間で可視光通信ネットワークを構築し、調光コントローラで設定した節電率や明るさを,部屋全体で達成できるように制御します」。
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昨年、評価を得ながら惜しくも世界大会を逃した悔しさがあったそうで、展示コーナーの作り込みも半端ではなかった。優勝が発表されたとたんに、リーダーの女の子が「やったー」と叫び、目を潤ませる光景があった。彼女たちは、無条件で世界大会に進出することができる。

一方で、「ゲームデザイン部門」で優勝したトライデント専門学校のチームは、別に行われる世界予選で選ばれる必要があり、結果待ちだ。

■待ち受けるレベルの高い世界大会

ただ、7月のシドニーでの世界大会では様々部門があるがレベルの高い戦いが待っている。昨年は180以上の国や地域、35万人以上の学生が参加。その中で、トップを目指すことになるからだ。もちろん、日本大会とは違い、英語でプレゼンし、実現性を証明し、審判員をうならせなければならない。

昨年の「ソフトウェアデザイン部門」の1位のチームは、アイルランドのInstitute Of Technology Sligoの携帯電話を使って、自動車の路面状況のログをとり安全かどうかを確認できる「過去に見たことがない」と審査員をまさにうならせたシステムだった。「製品化を目指して積極的に進む」と当日の様子をおさめた動画で語る学生の熱量は高い。

2位の米Arizona State Universityのチームは、白板の様子をカメラで撮影し、タブレットに表示し、白板を見なくてもメモが取れるというハードウェアを開発していた。作った学生に至っては、これで「卒業後、起業する」と意気込んでいる。

おもしろいのは、3位にヨルダンの大学の共同チームが入っているところだ。このチームは、脊髄を損傷して身体を動かせない人が、頭の動きだけでパソコンを操れるようにするというハードウェアを開発した。

全体的な傾向として、アメリカ、フランス、デンマークがいるが先進国重視の傾向もない。昨年の入賞しているチームの国を挙げると、ルーマニア、チェコ、スロバキア、ポーランド、オマーン、バングラディッシュ、シンガポール、タイ、インドネシア、台湾、中国、韓国、ブラジルとバラエティに富んでいる。日本も昨年、筑波大学附属高校のチームが入賞している。

■ビル・ゲイツにとってのIT教育の未来像

また、単にコンテストで終わらないで、ビル・ゲイツ財団を中心とした助成金で3年間で300万ドルの起業を支援すると今年1月に発表した。最終的に選ばれた、エクアドル、クロアチア、ヨルダン(昨年入賞のチーム)、アメリカの4チームは、今年のダボス会議に招かれて、ビル・ゲイツとディスカッションを行っている

もちろん、マイクロソフトの社会貢献事業(CSR)として、自社のプロモーションの意味もあるだろう。また、当然、応募にはマイクロソフト製品を使うことが前提となっているため、将来にわたってエコシステムに参加を促すように学生たちへの浸透を図る長期的な意図もあるだろう。

とはいえ、毎年規模化が進んでおり、専任のスタッフを置いていることを考えると、相当費用がかかっていると思われる。民間企業が、教育に貢献しようとする並々ならぬ意欲を感じさせる。

「スティーブ・ジョブズ II」の最後で、ジョブズの死がはっきりしたときに、ゲイツと二人で会話をする印象的なエピソードがある。そこで、二人は教育の未来について語っている。

ゲイツは、講義やビデオ授業を学生がひとりで勉強し、クラスの時間は討論や問題解決手法の実践に使うようになると、学校の将来像について自分のビジョンを語った。コンピュータが学校に与えた影響は驚くほど小さい(略)という点でふたりの意見は一致した。(P.406)

ビル・ゲイツは助成金の発表時に自身のブログで、こう書いている。

質の高い教育に触れる機会を向上させることは、学生たちに優れた仕事や企業家になるためのはっきりとした道を示す本質的なことだ。世界中に、私たちはさらに教育に投資をしなければならない。
加えて、テクノロジーやテクノロジースキルにアクセスすることは--アフリカかアラスカで育とうとも--経済的な機会を増やすために重要な要素になってくる(筆者訳)

ゲイツのブログを読むと、教育の一つのゴールは、教育で得たITスキルを通じて、新しい分野への起業を促していくプロセスであるようだ。そして、生まれた場所が機会のハンデにならないように。

若い人たちは、世界をよりよい場所にするために、アイデア、エネルギー、創造性を持っている。私たちは彼らの挑戦を手伝わなければならない(筆者訳)

世界大会は7月にシドニーで開催される。

こういう熱量は気持ちがいい。

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin