ジャニーズ問題に見る企業継続の是非

岡本 裕明

日本には世界でも圧倒する歴史を誇る企業が多数存在します。1000年以上続いている企業が7社もあり、そのトップは金剛組で設立は西暦578年です。578年なんてパッと言っても思いつかないでしょうが、聖徳太子が生まれたのが574年とされますので論外に古くから存在している会社、いや組織なのでしょう。その金剛組は現在は高松コンストラクショングループの傘下にあり、私が在籍した青木建設(現青木あすなろ建設)もその傘下であります。

日本の自慢を上げよ、と言われれば10や20はすぐに出てくると思いますが、多くの人が掲げるであろうその理由の一つは「世界で一番歴史のある国」です。神武天皇が即位したのが紀元前660年頃とされますので2700年続いている国家は世界にはありません。それゆえ、日本人は「脈々と伝わる〇〇」という言葉に異様に反応するわけで歴史が深い会社や組織ほど意味があると考える節はあると思います。

この根本発想は多くの日本人の心の中で醸成されています。例えば代々続いた家(イエ)が無くなることを非常に恐れ、戦国時代には殿様は側室をうまく使いながら子孫繁栄を目指しました。近年でも長男を重視し、儒教的な発想が日本の古来からの思想と相まって「苗字の継続」にやけにこだわることもあります。日本人がバトンレースや「たすき渡し」が大好きなのもその一例で駅伝や400メートルリレーが異様に盛り上がるのもそれが背景でしょう。東日本大震災の際、「つなぐ、つながる」といったキャッチワードが流行ったことも好例でしょう。

これらの特徴があまりにも強いためにかつてはアメリカのことを「歴史の浅い国」と揶揄する声もありました。「アメリカに行っても人工の遊園地しかない」とか「歴史の深みは西部劇だけか?」といった極端な見方もあったのです。が、アメリカやカナダは歴史がないゆえにカットアンドペースト的な思想を展開します。人を解雇するという発想やM&Aで歴史ある会社が瞬時に飲み込まれるという荒業もごく普通に展開されます。これは表現を変えれば「新陳代謝が良い」ということもできます。

先日のジャニーズの記者会見では東山紀之社長が名称を変えず、ジュリー氏も代表取締役に残りながらも再生していきたいと意思表明をしました。それに対して相当の批判が出ているのは皆さんご承知の通りです。では東山氏が社名を維持したいと考えた理由は何処にあるのか、といえばとりもなおさず、歴史の継承だと考えています。彼はジャニーズという組織とジャニー喜多川という人物を別々の人格扱いにして、組織は生かし、創業者は切り捨てるという難作業を目指そうとしたわけです。

ジャニーズ事務所Wikipediaより

それが批判の渦となったのは歴史があり、長ければいいわけではない見方があるからです。それ以上にビジネス的観点から世界からの批判が鳴りやまない懸念がありました。それならば純粋に国内だけで活躍する一タレントエージェントであれば継続できるかもしれません。が、ジャニーズ事務所が抱えている問題の本質はそこではないのです。

私は関連記事をほとんど読んでいないので重複したら申し訳ないのですが、ジャニーズは嵐が活動休止を宣言する頃、K-POPの台頭に非常に焦りを感じていました。同社のビジネス展開手法が国際的ビジネス観点からはユニークだったのです。ご承知の通り、同社の事業はジャニーズの各々のグループ、タレントが中心となるファンクラブの運営であり、一般大衆にはその一部しか見せないという閉鎖的運営なのであります。ジャニーズはそのファンクラブ会費が大きな収益源になっています。

それに対して韓国勢はオープンなマーケティング手法を展開し、世界展開を図ります。この差は圧倒的かつ破壊的でした。韓国タレントの曲がビルボード1位を取り、北米で白人がそれを口ずさむという現象は嵐の活動休止宣言と時を同じ頃の話でした。

その後、嵐はロスアンジェルスで収録し、海外を意識したマーケティング活動もしますが、活動休止直前で付け焼刃的であったことは否めず、結局、嵐を介したジャニーズの事業国際化はほとんどなしえなかったのです。

今般、東山氏がジャニーズの名前を残す、といった時点で私は「ソレ、ダメネ!」と思ったのは彼はやはり役者であり、タレントであって経営者ではないのです。ここまで問題になったのに、単なる感傷的理由で企業継続を目指す選択は第三者的には正しい選択肢だとは思えません。日本には継承という素晴らしい思想があるけれど、何でもつなげばよいというものでもないのです。

最後に、ジュリー氏が担当する補償問題ですが、私の提案する案です。ジュリーさんは資産1000億円以上を継いだとされます。考えてみればそれはジュリーさんが稼いだのではなく、ジャニー氏が稼いだのです。ならば、私はジュリー氏が独り占めすることがそもそもおかしいという前提に立ち、もっとも妥当な解決策を提示します。

それは資産額の半分、500億円を基金として被害者救済にあて、かつ、将来的に健全なタレント育成のための社会貢献ができる財団を作り、ジュリーさんはその理事長に収まる、それでよいかと思います。そうすれば社会は納得し、被害者も理解を示すでしょう。一方、ジャニーズは清算事業とし、新会社を作り、そこにタレントを動かすという方式を取ったらよいでしょう。会社経営者である私から見た妥当と思われる解決策です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月15日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。