クリエイターだけが分かる「3つの苦しみ」

黒坂岳央です。

クリエイターの定義は人によって考えが分かれる。「人間国宝レベルの高尚さに至ってからクリエイターと名乗るべき」と考える人もいるかもしれない。

本稿ではクリエイターの定義を「0→1を生み出す仕事」と広義に考え、上司や会社から言われた通りに作業をこなすのではなく、自分でゼロから作品を企画していく立場を指す。その上でクリエイターが直面する3つの苦しみを考察したい。

champpixs/iStock

1.生み出す苦しみ

まずはなんといっても「どんな作品を作るか?」という企画の苦しみである。「これから新規の分野を開拓していく」というステージだとこれは起きない。やりたいことが山ほどあるからだ。誰もが「さて、何からはじめようか?」というワクワクに包まれている。

だが地獄は一通り持ちネタを出し切ってから訪れる。ネタ切れは辛い。真っ白なPCモニターを前に1時間、2時間が飛ぶように過ぎていくが、企画が一文字も浮かばない苦しさはそれを体験した人でないと分からないだろう。話は変わるが筆者は昔、財務経理の仕事で新人の頃に仕訳入力をやっていた時期があった。この仕事の場合はそうはならない。仕事は常に山ほどあり、手元の伝票を延々何時間でも入力できた。それが終わっても上司から次の仕事が投げられるので、「仕事が枯渇して困る」ということは一度もなかった。

筆者が仕事をするのは子どもたちを学校や園に送り出し、お迎えに行くまでの夕方までだ。その限られた時間の中で何も生産できない日が続くのはとても苦しい。基本的にはノーテンキなタイプだが、あまりにスランプの谷が深いと「自分は無能なダメ人間ではないか」と考えたり、「もうこの仕事は辞め時なのでは」と瞬間的に感じることは過去に何度もあった。だが、気晴らしでゲームをプレイしている時や、ウォーキング中に画期的なネタをひらめき、忘れる前に慌ててメモするというもある。そして苦しむからこそ、アイデアを形にする時は最高の幸福感に包まれる。

クリエイトする仕事についている人なら、誰しも生み出す幸せと苦しさを両方体験している。

2.変化の苦しみ

次は変化の苦しみである。

記事でも動画でも同じ芸風では必ず飽きられる。いや、変化をつけても飽きられるので、変化がなければそのスパンが短くなると言ったほうが正しい。だから少なくとも、見せ方や表面のデザインだけでもドンドン変化していく必要がある。街を歩けば、レストランでもパン屋でも小さな変化をつけている。季節の花や新しい家具を店内に置いたり、新メニューを始める。変化があるから行く度に新鮮な気分になるし、また行こうという気持ちになれる。

だが仕掛ける側にとってはこれが簡単ではない。どう変化するか?を企画するのも大変だし、それ以上の理由に「変化すれば作品の消費者全員に必ずウケる」という保証はどこにもないからだ。筆者は動画制作でドンドン変化をつけてきた。撮影機材用のカメラ、カメラだけでも3回変えているし、途中からBGMをつけたり、動画の流れなども常に変化をつけてきた。

しかし、変化すると必ずといっていいほど「前の方が良かったから戻してくれ」という声が届く。それだけ作品へのエンゲージメントが高いということの裏返しなので、ありがたいことではある。だが自分の試みが否定される瞬間的な苦しさはある。

だが、マジョリティの本音はデータが教えてくれる。変化をつけたことで再生維持率が低下せず、むしろ伸びるようなら物言わぬサイレントマジョリティーはOKを出してくれたということなのだ。変化を受け入れてもらったとわかった時、いつも安堵感に包まれる。

3.評価の苦しみ

最後に世に出した作品の評価の苦しみである。

これは人によるかもしれないが、自分の場合「ダメ出しコメント」にはまったく傷つかない。ダメ出しコメントは多くが普段から作品を見ない一見さんから来る場合がほとんどで、そのほとんどは「無理解」に立脚している。内容が的はずれだったり、そもそもちゃんと内容を見ずに書いて来たり、承認欲求に飢えてマウントを取りたいとか、自己PRで送ってきたりするケースが多い。

苦しさを感じるのは、いつも真剣に見てくれている「お得意様」に受けなかった場合だ。特に途中で見るのをやめて帰っていく人が多い時は「ああ、ミスったな」と自分の未熟さを痛感させられる。何度か失敗が続くと次に作品を出すプレッシャーがドンドン強くなってしまう。そうした中でスマッシュヒットを出せた時は嬉しいというより、ホッとする気持ちの方が大きい。

今回はあえて苦しい部分だけを取り上げたが、いい面はこれ以上に遥かにたくさん存在する。「いつも楽しみにしています」といった応援メッセージや、食品やプレゼントの贈り物を頂いたり、イベントを企画すると遠方から足を運んでくれる人を見ると「頑張ってよかった」と思う。クリエイターがよく「お客様に支えられています」というが、あれはメディア向けのリップサービスではなく、まさしく本音の言葉なのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。