会長・政治評論家 屋山 太郎
岸田改造内閣の支持率は、世論調査でベタ下りである。一人ひとりの閣僚のメンツを見れば、落ちたメンバーは見当たらないが、手段で大衆にぐっと押してくるものがない。
小渕優子氏を自民党選対委員長に抜擢したのは明らかな失敗だ。小渕氏は2014年に政治資金問題を問われて経産相を辞任した。その時の辞任の約束は「不分明な点を開示して謝る」というものだった。その約束を反故にして、選対委員長を務める腹のようだが、こんな横着を国民が許すとでも思うのか。舐めている。
一方、松川るい女性委員長らがパリを訪問して、エッフェル塔を背にして塔の姿の真似をしている場面をSNSで流した。このパントマイムが国民をバカにしていると批判され、松川氏は女性局長を辞任した。この写真のどこが悪いのか。フランスはこの塔のデザインを誇りにしてエッフェル塔を建てたのである。これぞ観光地というものだ。
今、内閣で最重要な事は何か。予算上、軍事費はGDP比2%の額、43兆円もの大金を積んで行く方針が決まっている。しかしこれを現実に予算に組めば、その重装備は憲法違反に当たるという反論が出てくるのは必至だ。
今の装備で米中が戦えば、米軍が勝つと読む人は少ない。日米で力を合わせて米中が互角という状態を作らねばならない。日本は急がねばならない。
今では非武装・中立がいいという人はいないだろう。習近平体制はプーチン体制より戦争をやり易い体制だ。プーチン氏が一声でウクライナ占拠と突如言い出したが、習氏は既に何度も「台湾併合」を叫んでいる。叫ぶ一方で中米の高官の交流にも応じている。しかしこれでも台湾獲りは改めないだろう。過去主席は英国から香港を取り返した。その段階で一国二制度も最早、無いと分かった。台湾は日本の友邦だ。台湾は50年間日本だった。その国が自らを守りたいと言う。日本は「助けてくれ」と言われたら応ずるのが当たり前だ。
日本も米国も今、一体となって相互協力の体制を打ち出すべきではないか。一方で台湾の国連入りの運動を起こすべきだろう。安全保障理事国に中国とロシアがいる限り、容易な安保理改革はできない。だからと言って、永遠に改革待ちという訳にはいかない。そうなった時点で、台湾独立賛成派側は“新国連の設立”に踏み切るしかない。新体制側がどのくらい権限を持てるか、取り敢えず、台湾の国連加盟についての意見を聞いてみたらどうか。
国際情勢は極めて重いものがある。ここで日本は精神を入れ替えて生まれ変わる時だ。世界が日本の動きを注視している時に、岸田内閣は何を考えているのか。何故、最も重要な「憲法改正」を一言も言わないのか。
岸田氏の政治への力の入れ方に、普通の人間は戸惑っている。無知なのか、臆病なのか。どうやら岸田氏には国家の主権を動かす意志がなく、取り掛かる勇気もないようだ。すべからく、交代すべきだ。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。