広島県知事に、湯崎英彦氏(44)が当選しました。一般には知名度はないが、私は彼から贈られた新著『巨大通信ベンチャーの軌跡』をASCII.jpのコラムで紹介したばかりでした。通産官僚からアッカ・ネットワークスというDSL(デジタル加入者線)企業の経営者に転身し、さらにWiMAXという高速無線の会社を起こし、総務省の「出来レース」の審査に阻まれたが、見事に逆転したわけです。
彼の本を読むと考えさせられるのは、日本でエリートが起業することがいかにむずかしいかということです。最大の問題は資金でも技術でもなく、70歳以上まで高給の保障される絶対安全な人生を捨てる機会費用が非常に大きいことです。私は彼ほどのエリートではなかったが、39歳でNHKをやめるとき、新聞で「39歳で大企業をやめると生涯賃金で5800万円減収になる」という記事を読みました。相談したのは中沢新一氏だけでしたが、彼は賛成してくれました。上司に通告したら、1時間以上にわたって思いとどまるよう説得されました。
それでも私の意志が変わらなかったのは、90年代前半のバブル崩壊を取材して「日本経済はこのままでは大変なことになる」と感じたからです。日本経済に何が起こっているのか、大学院に入り直して経済学をもう一度、勉強してみようというのが私の唯一の動機で、就職の見通しもなかった。その点では、湯崎氏よりもハイリスクの転職でした。おそらく生涯賃金で5000万円以上は損したでしょう。
それでも、会社を辞めたことを後悔したことはありません。もう会社にいた時間より辞めたあとの時間のほうが長いためか、会社にいたころの記憶はほとんどなく、その後のほうがずっとよく覚えている。それは毎日すべてを自分で決めてきたからでしょう。湯崎氏も「役所を辞めたのは不合理な決断だったが、後悔したことはない」と著書に書いています。
行動ファイナンスに後悔回避理論というのがあります。これは失敗を恐れてリスクを取らないことをいうのですが、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスも人生の決断に際して「後悔を最小化することを原則にしている」と語っています。
I developed a theory I call, regret minimization. I asked myself, “When I’m 80 years old and look back on this, will I regret having given up an almost certain multimillion-dollar bonus to go out and start my own company?”
80歳になったとき「あのとき起業しておけばよかった」と後悔しないように人生を選ぶというのは、行動ファイナンス理論と合わないようにみえますが、これは短期的な決定か長期的な決定かの違いでしょう。目先の判断では人々は失敗を恐れるが、そういうリスク回避的な人生を続けていると、年をとってから後悔することになる。マーク・トゥウェインもこう言っています:「20年たてば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる」
コメント
このエントリで僕の好きな名言を思い出しました:
10年後にはきっと、せめて10年でいいからもどってやり直したいと思っているのだろう。
今やり直せよ。未来を。
10年後か、20年後か、50年後からもどってきたんだよ今。
読み人知らず 出典:2ちゃんねるの就職板
何か起業するということがベンチャーだと思われることがありますが、起業は手段であって、池田さんのようにリスクを負って新しい道に進む事もベンチャーですよね。リチャード・ブランソンのこの言葉に集約されてます。
Nothing ventured, Nothing gained.リスクを冒さなければ、何も得られない
私は、遅ればせながら56歳の時に、「自由に起業出来る可能性」だけが魅力で、34年間勤めた伊藤忠を辞めました。動機は色々ありましたが、「関係会社などへの『天下り』を世話して貰うのだけはご免蒙りたい」という気持が一番強かったように思います。
そういうことをする人はその頃には滅多にいなかったので、多くの人が驚いたようでしたが、手紙で挨拶状を出した人達とMailで挨拶をした人達とでは、反応が全く違っていたのを今でも思い出します。(共に励ましてはくれましたが、前者の人達は深刻な感じで、後者の人達は楽観的でした。)
率直に言えば、その頃はヒヤヒヤの連続でしたが、今となっては、「色々と面白かったなあ」という思いだけが残っています。
仕事だけじゃなく人生は全てそうなんですかね。
初恋の女性に振られたのは悲しかったけど、好きなことを伝えられてなかったら、もっと切なかったと思います。
>「20年たてば、したことよりもしなかったことを嘆くようになる」
自分の意思で決断したことは(たとえ失敗したとしても)後悔しないものだ・・という意味にも受け取れますね。
そう言えば、某IT企業の創業者社長がインタビューに答えて言ってました。
《自分が勤め先の会社をやめたときには友人らから君は本当の risk taker だと言われたけれど、自分では risk averter だと思っている。どうしてもやりたいことを結局せずに人生の終わり近くになって後悔するという非常に大きなリスクを避けようとしているのだから。》
という趣旨のことを。
これを聞いてなるほどと思いました。後悔するリスクを回避する行動にも合理性はありますね。やりたいことに挑戦もせずに結局後悔するというのは確かに大きなリスクだと思います。
普段のコラムは、辛口的な意見が多く、耳が痛いことが多いのですが(笑)、このコラムについては、人生の本質をついた非常に良いコラムだと思います。
日本は終身雇用制だと言われても、別に定年まで契約がある訳ではありません。辞めたければ、事前に辞めると言えば良いだけで、別に経営者が社員全員に、来年も残ってくれとお願いした訳でもなく、勝手に雇用契約が継続しているだけです。
もしかしたら、サラリーマンっていう生き方は、甘えた生き方なのかもしれないと考えてしまうことはあります。楽だから流されてサラリーマンやって生きるというのも1つの生き方ではありますが、自分にふさわしい人生とは何かを常に考えることは大事だなと思います。
私も、会社倒産やら、体壊して転職とか波乱万丈の人生を送っていますが、がんばったときの苦労って、後になってみると、楽しい思い出に変わるものです。
デフレの日本は大変ですが、こういう時こそ、夢を持ち、自分を励ましながら成長していくことを楽しめる幸せな時代ではないかと考えます。
私も、後悔しない人生にするため、がんばっていきたいと思います。