海自哨戒ヘリ墜落事故の遠因を調査して対策を取るべき

SH60K哨戒ヘリ
Wikipediaより

論点がよくまとまった高橋浩祐氏の記事です。

海自哨戒ヘリ墜落事故、艦長経験者「任務増加が訓練機会や訓練期間を圧迫」と問題視

海自哨戒ヘリ墜落事故、艦長経験者「任務増加が訓練機会や訓練期間を圧迫」と問題視(高橋浩祐) - エキスパート - Yahoo!ニュース
海上自衛隊の対潜哨戒ヘリコプターのSH60Kシーホーク2機が深夜の訓練中に墜落した。海自は行方不明の7人の隊員の捜索を続けるとともに、事故調査委員会を設け、事故原因の特定を急いでいる。 今回の海自ヘリ

2機は事故当時、互いの位置情報などを共有する「僚機間リンク」と呼ばれるシステムで結ばれていなかった問題点が指摘されている。

海自の艦艇艦長経験者のベテラン隊員は筆者の取材に対し、北朝鮮による相次ぐミサイル発射への対応や、中国公船が領海侵入を繰り返す沖縄県の尖閣諸島周辺での警戒監視活動の強化など、海自隊員の任務の増加が訓練機会や訓練期間を圧迫している問題点を指摘した。

同隊員は「任務の増加が訓練機会や期間を圧迫していることは、長年海自では問題視しされている」と強調した。

「人手不足の中、そのしわ寄せが海自の現場に押し寄せているという見方は正しいか」との筆者の質問に対し、前述の海自ベテラン隊員は「間違いではないと思います」と明確に答えた。

実際に自衛隊の多国間共同訓練への参加実績は2013年度が19回だったのに対し、2022年度はその2倍以上の43回に及んでいる。中でも自衛隊と米軍の主な共同訓練は急増している。2013年度が24回だったのに対し、2022年度は108回に達した。つまり、この10年間に4.5倍も日米共同訓練が増えたことになる。

この10年間で充足率は上昇したものの、定員が4万5517人から4万5293人へと224人減ったことになる。

報道からみれば、今回「僚機間リンク」が使われていなかったことが直接的な原因だと思われます。単なるミスなのか、何らかの意図があって使わなかったのか、あるいは故障していたのか、などが考えられますが、それを明らかにすべきだと思います。

遠因は人手不足と過重労働だと思います。まず哨戒ヘリの搭乗員は地上部隊よりも適性が厳しいので、より確保が難しいことが挙げられます。

また、今回整備に問題があったかどうかは不明ですが、全体的に整備も含めて人手不足です。

少ない人員に無理をさせてきたのが原因でしょう。しかもまだ海自は人手不足に鷹揚に構えています。いじめやパワハラを組織的に隠蔽する体質は変わらない。中途退職者が辞めた理由も理解も分析もできていません。バケツから水が漏れるような中途退職者を止める有効な方策は、組織文化の変革ですがこれが難しいでしょう。

本来もがみ級で導入されるはずだった、3隻に4組のクルーを導入するクルー制の導入もされていません。人手不足を解消するためには、艦隊勤務の厳しさの緩和が必要です。そのためにはより多くの隊員が必要という問題がありますが、艦艇の隻数を減らしてもそれをやらざるを得ないのに、逆に哨戒艦まで増やしています。

クルー制を導入して、隻数を減らすべきです。それでも個別の艦の稼働率は上がります。身の丈にあった艦隊規模を目指すべきです。

合わせて航空部隊も無人機を導入するなどして、有人機部隊を圧縮すべきです。

潜水艦もどうなのでしょう。16隻から22隻になったわけですが、適性の面からも艦艇で一番人員の確保が難しい艦種です。現在の充足率は何割なのか、また将来的にそれを維持できる見込みはあるのか。

組織の規模にこだわる限り、海上自衛隊は自滅への道を進むでしょう。

東京新聞の記事にコメントしました。

「自衛隊全体が疲れ切った状態」…ヘリ衝突事故から見えた海上自衛隊の「課題」 任務が増え過ぎた理由とは 東京新聞

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。

航空専門医がいない空自に戦闘機開発はできない やる気のある医官が次々に辞める自衛隊の内情

月刊軍事研究4月号に陸自の18式防弾ベストに関する記事を寄稿しました。

軍事研究 2024年 04月号 [雑誌]

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。