セブン&アイとヨーカドー「15%の間合い」の意味

関谷 信之

4月、セブン&アイ(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)が、2つの方針転換を発表した。

1つは、イトーヨーカドーの上場(IPO)を伴う分離。もう1つは、セブン-イレブン加盟店への、商品見切り販売、すなわち値引き販売の「推奨」である。

イトーヨーカドーとは離れたい。セブン-イレブン加盟店――のオーナーたち――とは近付きたい。そんな思いが透けて見える。

昨年の決算説明会で、

「スーパー事業とコンビニ事業にはシナジー(相乗効果)がある」

と力説し、イトーヨーカドーに執着していたセブン&アイ。だが実態は、シナジーを活かす「二刀流」経営ではなく、スーパーとコンビニどちらとも縁を切れない「二股」経営だったのではないか。

セブン&アイは、それぞれの事業とどのような「間合い」をとろうとしているのか。以下、推測していく。

筆者撮影

イトーヨーカドーと別れたい

当期のイトーヨーカドーの決算は約「△260億円」の赤字となった(※1)

この「被害」を、今のセブン&アイは100%被っている。セブン&アイの当期利益は225億円(の黒字)。もし、イトーヨーカドーと無縁だったら、現在の倍以上、単純計算で585億円の利益だったはず。イトーヨーカドーと別れたい。だが、創業家との関係悪化は避けたい。西武・そごう売却のときのような修羅場もごめんだ。

※直近 2024年2月期 利益は純損益とする

ならば、少しずつ間合いを取れば良いのではないか。イトーヨーカドーを上場させ、現在100%の自社の持分比率(※2)を減らしていけば良いのではないか。どこまで減らせるか?

「15%」までだ。

セブン&アイの井阪社長は、4月10日の「イトーヨーカドー上場」会見で、今後のイトーヨーカドー株の持分比率について

「15%未満とかではダメだという風に思っている」
セブン&アイ/持分比率15%以上で「イトーヨーカドー」上場検討 | 流通ニュース

と述べている。つまり

「15%までは持分比率を下げることがありうる」

ということだ。

「15%」は見映えが良い。「50%未満」なので、イトーヨーカドーは連結子会社ではなくなる。よって、セブン&アイと「一体」として見られることもなくなる。一方、「15%以上」なので、持分法適用会社として扱われる。もし、当期この持分比率だったら、赤字の影響は、「△260億円」ではなく、15%分の「△39億円」に留めることができたのだ(※2)

赤字の影響を最低限に抑えつつ、グループの一員という体裁は保つ。

これが、今後のセブン&アイとイトーヨーカドーの「間合い」だ。

当然、イトーヨーカドーが黒字となった場合、セブン&アイが享受する利益も少なくなる。「この先、イトーヨーカドーが大きな利益を創出する可能性は低い」ことを想定した間合い、とも言える。

では、セブン&アイ(セブン-イレブン・ジャパン)は、コンビニ加盟店とはどのような間合いをとろうとしているのか。

コンビニオーナーと近付きたい

セブン-イレブン・ジャパンは、コンビニ加盟店(のオーナー)との間合いを詰めようとしている。4月に打ち出した「値引き推奨」策に、その一端がうかがえる。

セブン、本部主導で値引き推奨 食品ロス削減へ方針転換|日本経済新聞

これまで、セブン-イレブン本部は、実質的に「値引き」を禁止し、「廃棄」を推奨する施策を採ってきた。原価割れ販売により、本部のロイヤリティが減ることを危惧したからだ。

※ 参考 「コンビニ会計」 コンビニのAI値下げが嬉しくない理由 | アゴラ 言論プラットフォーム

そんなセブン-イレブン本部が、値引き「禁止」から「推奨」に方針を改めたのはなぜか? 食品ロス対策だけが目的ではない。コンビニオーナーを懐柔するためだ。

筆者撮影

粗利の54~74%という高いロイヤリティ。売上を激減させる近隣出店(=ドミナント戦略)。ロイヤリティ率が2%アップしてしまう深夜休業(※3)など。

これまで、コンビニオーナーたちは、セブン-イレブン本部から冷遇されてきた。値引き推奨は、悪化した関係を改善するためでもある。

新規オーナーの成り手不足、既存オーナーの高齢化など、国内コンビニに大きな成長は望めない。よって、経営環境を改善し、現オーナーの離脱を防ぎ、現状を維持する。これが、セブン-イレブン本部と加盟店の「間合い」となる。

その一方で、期待が高まるのが、海外コンビニだ。売上高は、8兆5千億円と国内コンビニの約9.2倍。セブン&アイは、この巨大市場とどのような間合いをとろうとしているのだろうか。

海外コンビニの課題

国内と海外の金額を、詳しく比較してみよう。

国内コンビニ(セブン-イレブン・ジャパン)の売上高は9217億円、営業利益は2505億円。対して、海外コンビニ(7-Eleven, Inc.)の売上は8兆5169億円、営業利益は3016億円。

売上は、国内コンビニの「9倍」以上あるにもかかわらず、営業利益は「1.2倍」しかない。なぜか? フランチャイズ店が少ないからだ。

利益率を比較するとわかりやすい。国内コンビニの利益率は「27.18%」。対して海外コンビニは「3.54%」と、日本の小売の平均利益率「2.8%」を少し超える程度だ(※4)

つまり、海外コンビニの利益率は「普通」に近く、国内コンビニの利益率が「普通ではない」、ということがわかる。

国内コンビニは、フランチャイズ店が、ほぼ全てを占めている(99.1% 24年2月時点)。一方、海外コンビニのフランチャイズ店は、半分強でしかない(55.2% 23年12月時点(※5)

よって、海外コンビニの優先課題は

「『普通ではない』店、すなわちフランチャイズ店を増やすこと」

となる。また、すでに半分以上をフランチャイズ店が占めているにもかかわらず、利益率が低い。これは、仕入れルートや品揃え・営業時間など、既存フランチャイズの店舗運営に問題があるからだ。既存フランチャイズ店の質を高めつつ、直営店をフランチャイズ店に置き換える。いわば、海外コンビニの「日本化」が必要となる。これは容易ではない。すでに、海外のコンビニオーナーが危機感を高めているからだ。

4年前には、米セブン-イレブン加盟店オーナー団体「NCASEF」の幹部が来日し、「本部以外からの仕入れ制限」「24時間年中無休」など統制が強化され、オーナーの裁量が狭まりつつあることに懸念を表明している。

23年12月時点の海外コンビニの直営店は、5874店(※6)。この店舗数を担う「日本式」コンビニのオーナーを探すことができるだろうか。セブン-イレブン・ジャパン(セブン&アイ)は、海外コンビニとの間合いを詰めたいが「詰めにくい」。そんな状況にあるのではないだろうか。

共存共栄の理念

コンビニ大手の本部がフランチャイズとの関係について語るとき、必ず使われるのが、「共存共栄」という言葉だ。セブン-イレブン・ジャパンも例外ではない。

「加盟店様と弊社は、創業以来の『共存共栄』の理念と明確な役割分担に基づき、対等な立場で共同事業を営んでおります」(セブン-イレブン・ジャパン)
当社子会社に対する公正取引委員会からの排除措置命令について

セブン-イレブン・ジャパンと加盟店(オーナー)は、共存してはいる。だが、「共栄」とまで言えるかどうか。今後、セブン&アイはコンビニ事業に集中することになる。国内・海外とも、共存だけではなく、「共栄」することを期待する。

Xgamil Campos/Pixabay

【注釈】

※1
(株)セブン&アイ・ホールディングス(3382) 2024年2月期決算短信
※2
持分比率:自社が持つ株式数と発行済株式数の比率

連結:株を持つ会社(この場合セブン&アイ)と、株を持たれる会社(イトーヨーカドー)を、1つの組織とみなし、それぞれの決算書を合算して、全体決算書を作成・報告する。株を持つ会社(セブン&アイ)の持分比率が50%超か、実質的な支配力がある場合、投資される会社は連結の対象、すなわち連結子会社となる。

持分法:株を持つ会社(この場合セブン&アイ)の持分に応じて、株を持たれる会社(イトーヨーカドー)の利益・損失を配分し、財務諸表を作成する。持分比率20%以上が条件だが、一定の要件に該当する場合は15%以上でも、持分法適用会社となる。

※3
セブン-イレブンフランチャイズ(Cタイプ) 契約の要点と概説
※4
2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-|経済産業省
※5、※6
株式会社セブン&アイ・ホールディングス 2024年2月期 決算補足資料

【参考】

株式会社セブン&アイ・ホールディングス 決算説明資料他