コンビニのAI値下げが嬉しくない理由

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仕事帰りのコンビニで、つい買ってしまう値引き商品。この消費期限間近の値引き販売を、「見切り販売」といいます。

コンビニが、「見切り販売」の価格設定に、AIを導入します。

大手コンビニ AIで値引き 売れ残り防止で”食品ロス”削減へ | 環境 (NHKニュース)

重要なのは、AI活用や、食品ロス削減ではありません。これまで、加盟店に対し「制限」してきた、見切り販売の導入に本腰を入れ始めた、ということです。これは、コンビニ本部にとって「最も有益な」価格設定ができるようになった、ということを意味します。

コンビニ本部にとって有益な価格が、コンビニ加盟店(オーナー)にとって有益とは限りません。

今回は、コンビニ業界の見切り販売の背景について考察します。

見切り販売を制限するコンビニ本部

コンビニ加盟店は、廃棄ロスを減らすため、見切り販売を切望してきました。

消費期限切れで廃棄するくらいなら、安値でも売ってしまった方が良い。そう思うのは当然でしょう。

しかし、コンビニ各社は、これを徹底的に禁じてきました(※1)

公正取引委員会の実体調査では、

「見切り販売をしたら契約を更新しない・解除する、と言われた」
「見切り販売処理の方法がいやらしいほど面倒」

といった回答が寄せられています。

結果、見切り販売を行っている加盟店は30%に留まっています(※2)。

なぜ、コンビニ本部は、ここまで見切り販売を制限するのか。

ロイヤリティ収入が減ってしまうからです。

税務署より厳しい「コンビニ会計」

ロイヤリティは、「利益」に一定の率を掛けて計算します。

利益とは、売上から原価(費用)を引いたもの。これに率を掛けて計算する。税金とよく似ていますね。違うのは、何を「原価(費用)」とするかです。

商売では、売れる商品もあれば、売れ残って廃棄する商品もあります。税金の計算では、廃棄した商品も、原価に含めて計算します。

利益=売上-原価(売れた商品の仕入額+売れ残って廃棄した商品の仕入額)
税金=利益×税率

ところがコンビニ本部はこれを認めません。「実際に売れた商品だけ」を原価とします(※3)。

利益=売上-原価(売れた商品の仕入額)
ロイヤリティ=利益×ロイヤリティ率

税金の計算より原価が少ない。利益はその分多くなる。多くなった利益にロイヤリティ率をかける。当然、ロイヤリティも多くなる。コンビニ本部に有利な、この計算方式は「コンビニ会計」と呼ばれています。これにより、増加するロイヤリティは、1加盟店あたり年間170万円程度と考えられます(中央値より算出 ※4)。加盟店にとって大きな負担です。

見切り販売の動機

では、加盟店はどうすれば良いか。

「廃棄した商品」が原価に入らないのであれば、廃棄せず安値で「売って」しまえばよい。これが「見切り販売」ですね。

極端に言うと、「売価0円」でも良い。売りさえすれば、「売れた商品の仕入額」つまり「原価」として扱われる。コンビニ会計でいうところの「利益」が減る。結果ロイヤリティを減らすことができる。

これは、コンビニ本部としては困ります。

だから、見切り販売を禁止してきたのです。

導入に踏み切った理由

では、なぜ今になって、見切り販売に、本腰を入れ始めたのか。

公正取引委員会の圧力、食品ロスの社会問題化なども要因です。

しかし、最大の要因は、見切り販売の「悪影響」を、最小化できるテクノロジーを得たことです。

冒頭の記事によると、値引き後の価格は、過去の販売実績や気象条件などを元に、「AI」が決定するとのこと。これは、現在広まりつつある、ダイナミックプライシング(※5)の技術です。スポーツやライブなどイベントでは既に導入され、タクシーや鉄道などでも導入が見込まれています。

このテクノロジーを活用すれば、見切り販売を行っても、自社にとって有利な価格設定ができる。これが、導入に踏み切った理由です。

自由度低下の懸念

これまで、こっそりと行われてきた見切り販売。価格を決めるのは、コンビニオーナーです。つまり、加盟店に最適化した価格設定でした。

一方、今回のAI導入は、コンビニ本部に最適化した価格設定です。

コンビニ大手セブンイレブンは、公正取引委員会の排除措置命令後、以下の方針を定めています。

「見切り販売価格は、仕入れ値を下回らせない(下回る場合は廃棄コストを加盟店が負担する)」

これは、今後の価格設定アルゴリズムにも組み込まれることでしょう。

しかし、本来「価格設定」は経営者が行うもの。集客目的で、仕入値を下回る価格の「目玉商品」(※6)を作るケースもあり得るのです。

価格だけではなく、仕入品目や数量がコンビニ本部に「推奨提示」されるコンビニ加盟店。一般小売店と比べ、経営自由度が、かなり低い。今回の導入本格化をきっかけに、さらに低下してしまわないか。注視する必要があります。

【参考・注釈】

※1

平成21年6月22日の公正取引委員会の排除措置命令以降、緩和されたものの、令和2年9月の調査報告において、「見切り販売をしなかった理由」として、以下の回答が報告されている

・本部の意向に逆らうと契約更新等で不利益が生じるのでは
・契約期間が長く,これからも付き合っていかなければならない
・指導に従わないと不利に取り扱う可能性を示唆された

コンビニエストア本部と加盟店の取引等に関する実態調査報告書(令和2年9月))

※2 公正取引委員会の実体調査

コンビニエストア本部と加盟店の取引等に関する実態調査報告書(令和2年9月)

※3 廃棄コスト一部負担

セブン-イレブン・ジャパンは,平成21年6月22日の排除措置命令の後,加盟店の全額負担だった廃棄損失(廃棄コスト)のうち15%を本部側が負担すると発表。同業他社も、廃棄損失を一部負担している場合がある。

※4 廃棄コストのロイヤリティへの影響

Aチェーン、Aタイプ(土地・建物を加盟者が用意)の場合

加盟店廃棄商品額:468万円(中央値)
ロイヤリティ率:43%
本部負担:15%
(公正取引委員会実態調査報告書 令和2年9月より)

ロイヤリティ(本部負担無し)=468万円×43%=201.24万円
ロイヤリティ(本部負担あり)=201.24万円×(100%-本部負担比率15%)=171万円≒170万円

Cタイプ(土地と建物を本部が用意)で同計算した場合、222万円となる

※5 ダイナミックプライシング

参考記事
JR東日本のダイナミックプライシングは奏功するか
高値で買ってるのは自分だけ? 浸透するダイナミックプライシング

※6 ロスリーダー政策
来店客増のため、収益を度外視し極端に安価な商品(ロスリーダー)を販売すること。高利益率の関連商品とミックスして販売することが重要となる。