政治家と活動家が「コモン」を食い物にする環境社会主義

池田 信夫

東京都知事選挙に立候補した蓮舫氏の選挙公約には具体的内容がほとんどないが、唯一の具体的な争点は「神宮外苑の再開発の是非を問う都民投票」である。

外苑は「公共財」ではない

まず公共財という言葉の使い方が間違っている。これは斎藤幸平氏が間違っているのだが、公共財とは「各個人が共同で消費し、対価を支払わない人を排除できず、ある人の消費によって他の人の消費が妨げられない財・サービス」で、国防や警察や一般道路などをいう。

神宮外苑は宗教法人・明治神宮の私有地であって公共財ではない。これについてはすでに東京都が2022年に都市計画決定した。これに反対してきたのは、共産党だけである。共産党は「緑を守れ」というが、計画では約1900本の木のうち900本を伐採して1000本植えるので、木は増える。

この開発計画は伊藤忠商事が説明するように、もともと築100年もたって老朽化が進む神宮球場の建て替えを契機に周辺を再開発し、その収入で維持管理コストを捻出するためにできたものだ。

もしこれら施設の建替が進まない場合、老朽化が進み近い将来には「みどりを守る」ための資金も得ることは困難になり、この先のみどりを維持管理することも出来なくなります。即ち当プロジェクトは神宮外苑の「みどりを守る」ために、その資金を捻出する周辺施設建替を行うものです。

コモンを守るコストは無料ではない。明治神宮の森を守るコストは毎年10億円かかるが、これを球場などの利益でまかなっている。再開発をやめたら、明治神宮の森も維持できなくなるのだ。

コモンを維持するコストは誰が負担するのか

そもそも蓮舫氏や斎藤幸平氏は、具体的に何をしろというのか。「いったん立ち止まる」というが、立ち止まってどうするのか。再開発を中止するのか。その場合、神宮の森の維持コストは誰が負担するのか。

共産党のねらいは、外苑を収用して国有地にすることだろう。明治神宮が国営だった戦前の国家神道への逆戻りだ。この場合は維持コストは都民が負担することになる。つまり「コモンの共同管理」とは、そのコストを納税者に負担させることなのだ

これが環境社会主義者のトリックである。コモンという美名のもとに私有財産を接収し、それを政治家や活動家が食い荒らす。これは再エネ議連や再エネタスクフォースもやってきたことだ。彼らも「電力インフラは公共財だからタダで使わせろ」と要求し、一部の業者が莫大な利益を上げている。

コモンを食い物にする政治家と活動家

100年前、ロシア共産党はコモンの名のもとに私有財産を否定し、インフラや生産手段を国有化した。その結果どうなったかは、誰でも知っている。国有化されたインフラは政治家や官僚に私物化されて経済は衰退し、社会主義経済は崩壊した。

その教訓は明らかである:コモンを守るという建て前は美しいが、それを国有化すると、市場の代わりに政治によって資源が配分される。それは膨大な腐敗をまねき、政治経済システムを破壊してしまうのだ。

斎藤氏の環境社会主義は、人類が100年かけて大きな犠牲を出した社会主義という実験をまたやろうとするものだ。彼はその時代を知らないが、蓮舫氏は知っているだろう。彼女の祖国の台湾がいまだに国と認められないのは、中国共産党の暴力革命の結果なのだ。

環境社会主義は、斎藤氏の主張する脱成長には適している。政治家や活動家がコモンを食いつぶすと、経済は衰退する。すでに日本は脱成長の道を歩んでいるが、脱炭素化と称する環境社会主義は電力インフラを政治の食い物にし、日本の衰退を加速するだろう。

今夜から始まるアゴラ経済塾「脱炭素化は地球を救うか」では、このような環境社会主義の問題も考えたい(申し込み受け付け中)。