安倍元総理命日に寄せた新著:高市早苗『日本の経済安全保障』

著者自ら7月8日という安倍晋三元総理の命日に拘り、過去2年間大臣として取り組んだ経済安全保障の成果発表を世に問うたのが本書「日本の経済安全保障~国家国民を守る黄金律~」である。

著者が2代目の経済安全保障担当大臣に就任したのは、経済安全保障推進法が成立してから3か月後であった。2代目として成立した法律に「魂を入れる」ことが、正に著者の任務であった。

同法は当初から、完璧な法案作成よりも法案成立を優先して項目を絞り込んでいた。従って、経済安全保障を実践する上で絶対に避けて通れない改正事項が実は残されていたのだ。それこそがセキュリティクリアランスの整備であり、著者はその創設と法案の改正を自らの使命と位置付けたのである。

政府が保有する安全保障に関する重要情報に対して厳格な情報管理や提供のルールを定め、その機密情報を取り扱う人物を指定することこそセキュリティクリアランスの要諦である。これは安全保障情報を扱う公務員を選別することで、同盟国など日頃から機微な情報を扱う政府間での情報やり取りを、制度の信頼を基礎に円滑化するものである。

同時に、これまで法律の未整備で防衛産業などの国際ビジネスで、必要な情報にアクセスすることが出来ずに商機を失っていた民間企業へ後方支援する意味でも画期的な動きであった。

米中対立やロシアによる激しいサイバー攻撃などで国際社会が分断する中で、日本がその世界的潮流を先取りし、ルール形成を先導していく上で、著者が大臣として取り組んだ仕事は日本にとって死活的に重要であることは誰にも否定できない大きな功績である。

自民党総裁選が2か月後に迫る中、敢えて7月8日に新著を世に送り出すとなれば、周りは当然総裁選に向けての政権構想と期待を抱く。しかし、これまで紹介した通り、本書は大臣としての成果発表であり、総裁選に向けた決意表明でもなければ政治理念を発表するものでもない。

経済安全保障担当部署が設置され、急遽新部署へ送り込まれることになった企業の担当者が参考書として勉強する実務書といっても過言ではない。自己顕示欲を感じさせない純粋な政策本という意味で、コツコツ部屋に籠って書類の山と格闘する仕事人としての著者の生真面目さが良く表れた書籍であると思う。

思えば2021位8月の菅義偉政権末期に、総裁の座を目指し、最初に「日本経済強靭化計画」なる政権構想を「文藝春秋」9月号に発表したのが著者であった。今回も著者は先陣を切って、これまでの仕事の成果を世に問うた。

これから熱を帯びていく自民党総裁選において、我こそはと思う候補者は是非国民に対してこれまでの実績や自らの決意を国民に投げかけてほしい。