脳性マヒを生きる詩から学ぶノーマライゼーションの実現

MARCELO MADERS DE OLIVEIRA/iStock

ベストセラーとなった「1日1話、読めば心が熱くなる365人の教科書」シリーズを、中高生向けに編集してほしいという要望が寄せられたことをきっかけに誕生した一冊。中高生に贈りたい話題を厳選している。

毎週1話、読めば心がシャキッとする13歳からの生き方の教科書」(藤尾秀昭 監修)致知出版社

人生のテーマ

藤尾秀昭(致知主幹)のページを紹介したい15歳の重度脳性マヒの少年が、その短い生涯の中でたった一端、命を絞るようにして書き残した詩である。

ごめんなさいね おかあさん
ごめんなさいね おかあさん

ぼくが生まれてごめんなさい
ぼくを背負うかあさんの
細いうなじに ぼくはいう

ぼくさえ 生まれなかったら
かあさんのしらがもなかったろうね
大きくなったこのぼくを
背負って歩く 悲しさも
「かたわな子だね」とふりかえる
つめたい視線に泣くことも

ぼくさえ 生まれなかったら

ありがとう おかあさん
ありがとう おかあさん

おかあさんがいるかぎり
ぼくは生きていくのです

脳性マヒを生きていく

やさしさこそが大切で
悲しさこそが美しい

そんな人の生き方を
教えてくれた おかあさん
おかあさん
あなたがそこにいるかぎり

「致知」2002年9月号で向野幾世さんが紹介した時である。作者は山田康文くん。生まれた時から全身が不自由、口もけない。養護学校の先生であった向野さんが抱きしめ、彼の言葉を全身で聞いて完成させた詩になる。この詩が私たちに突きつけている意味はとても重い。

ノーマライゼーションとは何か

1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(PARC判決)を宣言している。

これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピングを招く危険性があることへの警告である。国民の6%が何らかの障害を有しているとされるなか障害者政策は喫緊の課題といえよう。

障害をもつ人が社会参加を果たすためには、さまざまな「壁」がある。物理的な壁や制度上の壁は、政治や行政の努力で取り除くことができる。しかし偏見や差別など、社会に根付いている「心の壁」を取り除くためには、社会福祉の概念を見直す必要性があり時間のかかる課題でもある。

障害を持つ人たちが社会構成員の一員として、社会の恩恵を等しく受けることができるノーマライゼーションを実現することは簡単ではない。そこに生きる人の心が貧しい社会であっては、ノーマライゼーションを創造し実現することはできないからである。

なお、筆者は表記について「障害者」を使用し、「障がい者」は使用しない。過去に、多くの障害者が権利を侵害されてきた歴史が存在する。それらの歴史について、言葉を平仮名にすることで本質が分かりにくくなる危険性があるため「障がい者」を使用していない。

正しい見識を身につけることで正しい理解が広まる。本書を通じて、意義ある活動が世の中に広まることを祈念したい。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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