ドイツの高級紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ゾンタークスツァイトゥング(FAS)」の17日付電子版によると、ドイツ政府はウクライナへの新たな援助を停止する方針を固めた。この決定は、ショルツ首相とリントナー財務相による財政緊縮政策の一環として行われたものだ。対ウクライナ支援で米国に次いで2番目の支援国ドイツが新たな支援を停止すれば、ロシアと激しい戦闘を繰り広げるウクライナ側にとって大きなダメージとなることは必至だ。
具体的には、現在の予算計画では、新たな軍事支援や経済支援に使える資金はない。既に承認された支援は継続されるが、防衛省からの追加の申請は今後認められない。この決定により、IRIS-T防空システムや他の軍需品の供給が難しくなるか、停止されることは必至だ。ピストリウス国防相は、この決定に異議を唱えているが、財務省の指示に従わざるを得ない状況だ。
FAZによると、リントナー財務相は今月5日、ピストリウス国防相への書簡で「新たな措置は今年と来年の予算計画で資金が確保されている場合にのみ承認されるべきだ。上限が守られることが重要だ」と通達したというのだ。今年は約80億ユーロに相当するウクライナへの資金提供が既に計画されている。来年予定されている上限額は40億ユーロだが、既にオーバーブッキングとなっている。財務省関係者の言葉を借りるならば、「資金は尽きた」というのだ。
ショルツ連立政権内では今回の対ウクライナ支援停止決定に反対の声もある。連邦首相府としては緊縮財政を維持したい意向といわれるが、社会民主党のピストリウス国防相のほか、「緑の党」のベアボック外相やハベック経済相は反対しているという。
参考までに、対ウクライナ支援の財政源としては、凍結されたロシア中央銀行の資産を利用する計画があることから、財務省はウクライナ支援が中断されることは予期していない。リンドナー財務相がピストリウス国防相に送った手紙では、「今後のウクライナ支援資金は連邦予算ではなく、西側諸国が戦争開始時に差し押さえたロシアの中央銀行資産(欧州だけで1500億ユーロ)のうち、500億ドルの資金調達手段を短期的にウクライナに提供するため、G7諸国とEUで取り組んでいる」と説明している。リンドナー財務相は「この資金でウクライナは軍事的ニーズの大部分を賄うことができる」と予測している。もちろん、ロシア側の強い批判もあるからその実現可能性については依然不確定だ。
今回の決定でIRIS-T防空システムの引き渡しは一時的に断念されたばかりか、砲弾、ドローン、戦車や自走砲の予備部品の注文でもドイツの軍需産業は供給できる体制にあるが、「資金が承認されない」という理由で一時停止されているという。
ショルツ政権は2024年連邦予算案に対して連邦憲法裁判所の違憲判決を受け、再検討するなど混乱したが、今月17日、2025年の予算案を閣議決定したばかりだ。基本法の債務ブレーキ要件は引き続き遵守される一方、歳入不足を補うために、連邦所有のドイツ鉄道への資金の再配分などが検討されている。
ちなみに、ドイツ連邦統計庁が発表した第1四半期の国内総生産(GDP)速報値は前期比(季節調整後)で0.2%増、第2四半期になって大きな成長はみられず、リセッション(景気後退)から回復の兆しはまだない。そのような中で、対ウクライナ支援の停止はやむを得ない状況ともいえるだろう。ショルツ首相はこれまで「わが国はウクライナが必要としている限り、支援を継続する」と言明してきたが、国内の経済情勢はその支援にストップをかけてきたわけだ。
参考までに、今月に入って、ウクライナ軍が越境し、ロシア領内のクルスク州に軍事侵攻したことから、ロシア側の強い軍事的報復が予想されるなど、ロシアとウクライナ間の戦争がエスカレートし、欧米諸国を巻き込む危険性が出てきている。ロシアとの直接の軍事的衝突を恐れるドイツは、ウクライナ側の越境攻撃を歓迎していない。そのうえ、2022年9月に発生した「ノルド・ストリーム」のパイプライン爆破事件について、最近の報道によると、ウクライナに関連するグループが関与していた可能性が改めて明かになってきたばかりだ。ウクライナ政府は事件当初、事件との関わりを否定してきた。
このような情勢から、ショルツ政権内でもウクライナへの無条件で全面的な支援に対して、慎重になるべきだといった声が聞かれ出している。2025年の新たなウクライナ支援の停止は、単に財政的な要因だけではなく、ウクライナ側の軍事戦略へのドイツ側の不満も反映していることは間違いないだろう。いずれにしても、11月の米大統領選の行方と共に、欧州の代表国ドイツの財政情勢が持続的なウクライナ支援の公約に影を差してきた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。