当たり前になった「私、会社を辞めます」:転職できるスキルはありますか?

「就職は会社との結婚である」と私は1980年代に普通に述べていました。その時の意味は奥さんといるより長い時間、会社に拘束され「深い契りを交わしす」ことで就職が成り立っていたと考えています。(思い出してください、リゲイン、24時間働けますか、の時代です。そして多くの人がいう「ウチの会社」です。)

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当時、会社を辞めるなら30歳まで。再就職は今より給与は1-2ランク下がる、こう言われたもので、給与が下がるなら今の会社で我慢するか、という話があったのもこれまた事実。

では当時と今と会社を辞めたい理由が変わったのかといえばほとんどその変化はないと理解しています。つまりストレスフルで給与は安く、やりがいもあまりない、であります。ちなみに23年に発表されたギャラップ社の「グローバル就業環境調査」で日本人が感じる「やりがい」は5%と145か国の最低レベルだったそうです。これは極端な例にせよ、日本人の多くは会社の勤務はやらされ感の中にあるのでしょう。

では80年代まではそんな会社でもなぜ辞めなかったのか、私なりに考えた理由の1つが終身雇用が定理であったこと、2つ目が多くの会社が成長期にあり、会社の業績の伸びを社員が分かち合える余裕があったことではないかと考えています。

終身雇用は当時は人生で当たり前の方程式でした。この会社に終生をささげることは親と家族と世間から躾けられた「常識」であり、定年までそこの会社で働くことで老後もささやかながらも年金生活ができるという一種の保険を買うようなものであったのでしょう。よって当時、転職とは今のこの会社の水準についていけない「ダメ男」的なレッテルが貼られ、転職先は当然ながらにして1ランク下げる、よって給与も下がるという流れでした。

一方、会社の業績の伸びを社員が共有できたというのは確かにあったと思います。私が勤めていた会社では時折社内放送で決算の状況(主に売り上げ)や大プロジェクト受注、更には資本金がどんどん増えていく様子をかなり頻繁に放送しており社員に高揚感を与えていました。特に大プロジェクトの受注のアナウンスは「おぉー」という声と共に「我々の部署も頑張らねばならない」という強い団結力を社内全体に作り上げていました。

残念ながら今、終身雇用は社員の方から「そんなコミットできない」という時代になりました。会社の業績がぐいぐい伸びるのはごく一時期であったり、限られた会社であったりします。突然、車内放送で「ピンポンパーン、お知らせいたします。…」なんてやっているコテコテの会社はないでしょう。そんなのは会社のIRをウェブで見てくれと言わんばかりです。ですが、社員がIRを見ることはほとんどないのです。だから灯台下暗し。以前、ある大手製薬会社に勤めている方に「オタクの会社、〇〇の研究で将来有望なんですってね」と述べたら「えー、そんなの私知りませんよ。どこで聞きましたか?お詳しいのですね」というレベルです。

やりがいと給与水準への不満。これはある意味主観的であり、また日本的思考であるとも言えます。

海外から見る日本の会社運営の基本的には外国同様トップダウンです。ただし、欧米でいうトップダウンとはやや違い、「役員会や常務会、執行部など上層部が決めた会社方針」を下部組織に浸透させることであります。欧米でトップダウンといえば明白に社長/CEOの指示のことを指しますが、日本では〇〇会議での決定によるものであり、それは民主主義的多数決で決定されたわけであり、必ずしも社長が主導したとは限りません。サラリーマンの典型的な飲み屋の会話は「今度の方針、あれ何なのかね?」「しょうがないだろう、上が決めたことだ」という「上」は特定の人物というより会社という組織体の天の声のようなものではないでしょうか?

これはやらされ感が管理職を含め、社内全体に蔓延してしまうのです。現場の声は反映されず、社員は受動的立ち位置になってしまうのです。これではやる気は起きないですよね。そこでこの逆手で業績を伸ばしたのがパンパシフィックインターナショナル、誰も知らないと思いますが、ドン・キホーテといえばどうでしょうか?

このドンキ、小売りではイオン、ユニクロ、セブンに次いで国内第4位なのですが、その理由は現場の自由度がめちゃくちゃ高いのです。ドンキのスタッフを見たらわかるでしょう。様々な個性をこれでもか、と生かしています。もちろん、仕入れなどの自由度も高く、バイトから社員まで一体感を作っています。

もう一つが「餃子の王将」でこちらはメニューが店ごとに違います。店長の鍋の振り具合であっちの王将とこっちの王将では違う品目で味も違うということが起きています。これは店長以下しっかりしたチームを組成し、同業他社のみならず、社内競争を煽るという意味でプラス効果が出ています。これらはやらされ感をやる気に変える好例だと思います。

では給与です。多くの方が真っ先に挙げる会社を辞めたい理由「給与が安い」ですが、「辞めたら給与が増えるのですか」と私は問いてみたいです。案外、こんな安月給でストレス貯めさせられてボロボロになるまで使われて…という一種の怨嗟で辞めるケースは会社側と従業員側双方に理由があると考えています。もちろんケースバイケースです。

ただ1つ聞いてみたいのは「あなた、転職するにあたり何かスキルがありますか?」です。かつての履歴書の特技技能欄は「普通運転免許」でした。20年前には「エクセル、ワード」が加わったりしました。では現在は、といえばそれから特に変わっていないのです。つまり前職で業務に対する特別なスキルはほとんど身に着けていません。よって転職するにあたり「ガッツだけはあります!」になってしまうのです。これでは人事担当者の心は動かないのです。

会社を辞める前に少なくともどんな汎用性あるノウハウを身に着けたか、そこを考えるべきだと思います。社内ルールや社内人事にいくら詳しくてもそんなのは屁にもならないのです。汎用性、ここに注力し、本当に実力がついたときが辞める権利取得とも言えます。辞め方は自由。ですが、禍根を残さないことも大事ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。