今月1日に実施されたドイツ東部の2州議会選挙の結果は極右「ドイツのための選択肢」(AfD)の歴史的な躍進となったが、同時に、ベルリンのショルツ連立政権の崩壊の危機が一段と現実味を帯びてきた。今月22日に実施されるブランデンブルク州議会の選挙で第1党社会民主党(SPD)がAfDに敗北を喫するようだとSPD内で「ショルツ首相では選挙を戦えない」として首相退陣への圧力が一層高まることが必至だ。
信号連立政権(SPD、緑の党、自由民主党=FDP)と呼ばれるショルツ政権の1日の2州議会選の結果は目を覆いたくなるほどだ。少し振り替える。テューリンゲン州議会選ではSPDは得票率6.1%、ザクセン州選では7.3%といずれも州選挙では同党最悪の1桁台の得票率に甘んじた。一方、緑の党はテューリンゲン州議会選では3.2%に終わり、議席獲得に必要な得票率5%の壁をクリアできずに同州議会では議席を失った。ザクセン州議会選では5.1%と辛うじて5%を超えた。自由民衆党(FDP)は両州議会には議席を有していない状況が続いている、といった有様だ。
すなわち、連邦レベルでは政権を握っている3党の総得票率はテューリンゲン州議会では10%以下、ザクセン州議会では15%以下だ。独週刊誌シュピーゲルは「スピリットは切れたのか」という見出しで信号連立政権の存続に疑問符を呈する一方、ドイツ代表紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」紙は「信号連立の終わり」と書き、ベルリンの連立は悲惨な状況だと言い切っている。
それではSPDは今回の結果をどのように受け取っているだろうか。ショルツ首相は「結果は苦々しいものだ」と述べる一方、「SPDが5%の壁を越えられないという暗い予測があったが、現実にならなかったことに安堵している」と語ったという。ショルツ首相自身が東部州議会選には余り期待せず、戦う前から敗北は織り込み済みだったことを示唆しているのだ。
SPDのエスケン共同党首は信号連立政党の選挙での壊滅的な結果について、「連立政権内の悪いコミュニケーションだ。政権内の多くの対立が過去、公然と行われてきた」と指摘し、移民・難民政策や予算問題での政権内の争いが国民に政権離れをもたらしたわけだ。ただし、現連立政権はビジネス・アズ・ユージアルで継続していくという。
一方、緑の党のラング連邦共同党首は2日、記者会見で「選挙結果を受けて今後は社会的安全保障やより良いコミュニケーションに重点を置く」と発表している。東部2州議会には議席を有さないFDPのリントナー連邦党首(財務相)は2日、連邦政府の継続を支持することを表明しているが、同党内には「わが党は連立政権から離脱すべきだ」と主張する声が高まっている。ただし、与党3党の指導部は現政権の継続で一致しているわけだ。
バイエルン州のゼーダー州首相(キリスト社会同盟=CSU)は「東部2州議会選の選挙結果はわれわれにとって転機だ。AfDが最強の勢力となった選挙結果は私たち全員にとって真の警鐘であるべきだ。これまで通りの方針を続けるわけにはいかない」と述べ、「信号連立は終わりにしなければならない」と強調した。
AfDのワイデル共同党首は「国民は連邦レベルに総選挙を願っている」として、「ショルツ首相は連立相手と共に結果を受け入れ、荷物をまとめて退陣すべきだ。国民は新しい政府を求めている」と述べている。
ちなみに、極右AfDの躍進について、ドイツ中央ユダヤ人評議会のヨーゼフ・シュスター会長は「ドイツで益々多くの人々が政治的信念からAfDを選んでおり、極右イデオロギーが顕在化している」と指摘、多くの有権者が現政権への抗議票、不満票としてAfDを支持しているのではなく、意識的に極右勢力を支持していることに強い警戒心を持っている。
テューリンゲン州議会選で第1党に躍り出たAfDを率いるヘッケ氏は反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜し、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼んだことがある政治家だ。そのAfDが同州で32.8%の得票率を獲得したのだ。特に、若者の間でAfDの支持者が増えている。
ショルツ連立政権の運命は今月22日に実施されるブランデンブルク州議会選の結果次第だろう。同州(定数88)で第1党のSPDがAfDに敗北するようだと、「ショルツ首相ではもうダメだ」という声が党内から出始めるだろう。2019年の前回選挙では、SPDは26.2%の得票率でトップ、AfDは23.5%で、両党は僅差だった。
テューリンゲン・ザクセン両州議会選の結果について、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は「ドイツの政治的激震」と表現し、戦後ドイツの転換点と評したが、ブランデンブルク州議会選はショルツ連立政権の退陣をもたらす可能性が出てきたのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。