世界最大の麻薬組織シナロア

トランプ前大統領はメキシコを攻撃すると選挙キャンペーンで語った

トランプ前大統領は今回の再選を狙っての選挙キャンペーンで、メキシコとの国境に壁を建設すると、前回キャンペーンと同様に繰り返し主張している。更に、それがメキシコ政府で受け入れられない場合は輸入関税を設け、メキシコの領土に米軍を派遣して麻薬組織を攻撃することを誓っている。

そして、トランプ氏が主張しているのは、「問題なのは、メキシコは麻薬組織によって国家機能が硬直していることだ。なぜなら大統領を僅か2分で殺害できるくらいの勢力をもっているからだ。麻薬組織がメキシコを操っている。この状態を改善するか、それとも彼らを攻撃するかのどちらかだ」とフォックス・ニュースのインタビューで語った。

実際、彼が大統領職を離れたあと、彼の所有しているフロリダのマーア・ラゴの別荘で麻薬組織を攻撃するために分析されていた書類がFBIによって見つかっている。(7月25日付「ABC」から引用)。

それに対して、今年10月に任期満了で退任することになっているメキシコのロペス・オブラドール大統領は、「トランプ氏は友人である。国境を封鎖したり関税を設けたりすることができないことを説明した書面を彼に送る意向である」と語った。

シナロアはメキシコ国内で17万5000人を雇用

トランプ大統領が執拗に麻薬組織を退治することを主張しているのは、麻薬による最大被害国が米国だからである。そして、米国と陸続きのメキシコがその最大の供給国である。

メキシコの麻薬組織の中で、米国の麻薬市場の6割を制しているのがシナロアだ。シナロアの親分チャポ・グスマンは無期懲役で米国の刑務所に収監されている。そこで彼は24時間点灯がつけぱなしの独房に収容されている。そしてつい最近、シナロアのナンバー2だったマーヨ・サンバダも遂に逮捕された。

にも拘らず、シナロアの勢力は依然衰えることなく違法活動を続けている。シナロアはメキシコに5万人のメンバーがいると推測されている。年商は31億ユーロ(3800億円)。メキシコ国内だと32の自治州の内の17の州で密売取引をしている。ウイーンのComplexity Science Hubの調査によると、シナロアはメキシコだけで17万5000人を雇用している、としているという。(8月13日付「ABC」から引用)。

シナロアの歴史

シナロアの歴史は1960年代に遡る。ペドロ・アビレス氏がヘロインとオピオイドを密売し始めたのが最初だ。ところが麻薬の取り締まり強化で、彼は1978年にメキシコの軍隊と交戦してシナロア州で死亡した。彼の跡を継いだのがエルネスト・フォンセカとラファエル・ファロ・キンテロの二人だ。前者がファイナンスを担当し、後者が密売を促進して行った。

80年代になると、この二人はコカインとヘロインのビジネスを拡張して行った。あの時代に米国へ抜けるトンネルや米国での販促のために秘密裡に小型飛行機の滑走路を建設。またラテンアメリカとの関係を強めて麻薬の生産そして供給業者のネットを築き、またヨーロッパへの市場を切り開いていった。

この時代にシナロアはスペインではカナリア諸島やガリシア地方(ポルトガルの真上の地方)を拠点に麻薬の販売網を築いていった。

シナロアを最大の麻薬組織にさせたのがチャポ・グスマンで、それは80年代の後半である。ラファエル・ファロ・キンテロが米国の麻薬取締局DEAのエージェントを殺害したのを契機に、米国はメキシコ政府に圧力を掛けて彼を逮捕する為にメキシコ軍は動かした。その結果、キンテロが収監されたことによって、彼の後継者となったチャポは麻薬の国際密売ルートの開発に積極的に動いた。その時から相棒として活動したのがマーヨ・サンバダであった。

シナロアは賄賂を巧みに使って警察、政治家、高級官僚らを彼らの味方にした。特に、シナロアが急成長したのは、カルデロン元大統領の庇護下のことだ。彼のメキシコ政府はシナロアから提供される情報を基にライバルの麻薬組織への取り締まりを厳しくした。そのお陰で、シナロアは独占的に密売網を拡大して行ったのであった。

シナロアの強力なライバル

現在、シナロアの強力なライバルとなっているのがカルテル・デ・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)だ。このカルテルはもともとシナロアの下請け的な存在であった。米国のDEAの現在の最大使命のひとつはCJNGの親分エル・メンチョことネメシオ・オセゲラを逮捕することである。